2017年09月22日 1494号

【朝鮮6度目の核実験/「核抑止力」は軍事挑発そのもの/行きつくところは独自核武装】

 東アジアの軍事緊張を激化させる朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮、注)の核・ミサイル開発が止まらない。日米両政府は「最大限の制裁」を叫び断念を迫るが、脅迫で従わせることはできない。自ら核兵器を保有する米国が、「米の脅威に対抗する」名目の朝鮮の核開発を否定しても説得力はない。「核の傘」にすがる日韓政府もそうだ。選択肢は無条件対話による平和解決だ。そうでなければ、限りない軍事挑発が続き、独自核武装にも行きつく。

米大陸に電磁波攻撃も

 朝鮮は9月3日、6度目の核実験を行った。朝鮮中央テレビは「大陸間弾道ミサイル搭載用の水爆実験に完全に成功した」と核兵器研究所の声明を読み上げ、「核武力完成の完結段階」を誇示した。爆発規模は広島型原爆の10倍以上(TNT火薬160`d相当)と推定され、日米政府も水爆であったことを否定していない。核戦争の危険性を拡大する行為は決して許されるものではない。

 一体朝鮮の核・ミサイル開発はどこまで続くのか。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は、米国ワシントンへの核攻撃能力を手にすることが「完結」としている。発表通りであれば、水爆の起爆装置に使う原爆の小型化・制御は完了したことになる。運搬手段はどうか。大陸間弾道ミサイルは、500`の弾頭搭載で射程1万q(ロサンゼルス、シカゴなど)に達する火星14型の発射実験(7月28日)に成功したとしている。来春には3千d級の潜水艦が竣工する。潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)3発前後搭載可能という。SLBMは昨年8月の実験で、500km程度の飛距離が確認されている。さらに射程を延ばす3段固体燃料ロケットの開発をほのめかしている。

 今回米政府に衝撃を与えたのは、朝鮮が「電磁パルス攻撃」を口にしたことだ。大陸間弾道弾は大気圏再突入時の耐熱技術が確認されていない。だが電磁パルス攻撃は、再突入前に核爆発させればいいとされる。高高度(数10kmから数百km)での核爆発で生じる電磁波により地上の電子機器が異常をきたし、引き起こされる被害は計り知れない。

 8月29日に発射された火星12型。日本政府は北海道上空を飛んだと騒いだが、そのルートを延長するとハワイに至る。米太平洋軍事司令部を置く米軍基地がある。

 金正恩は、体制を維持するには核保有によって米政権から不可侵の保証を得る以外にないと考えている。一連の核・ミサイル実験はそのためのものだ。

脅迫は問題解決ではない

 米トランプ政権は「さらなる制裁強化」で対抗。国連安保理へ、原油・石油製品や繊維製品の禁輸、朝鮮労働者の海外就労禁止、金正恩らの資産凍結などとともに公海上での臨検を提案した。エネルギーを止め外貨獲得の道を閉ざし、金正恩政権を追い詰めようというのだ。この米国案を「異次元の制裁を」とあおっているのが安倍だ。

 これに対し、経済や安全に影響を受けるロシア・中国は対話重視の姿勢だ。安保理採択(9/11)では、原油供給は現状維持など、米国案は大きな修正を余儀なくされた。

 制裁の被害を受けるのは朝鮮民衆だ。朝鮮国内では「軍事強化で食料は得られない」と先軍政策への不満が表面化し、当局に摘発される事例が増えているという(毎日9/8)。しかしそれが「制裁の効果」とはならない。兵糧攻め≠フ徹底が何をもたらすのか。約80年前、石油禁輸など連合国の包囲網に、日本軍国主義は東南アジアに石油を求め、全面戦争へと突き進んだ。金独裁政権が、国内の締め付けを強め、無謀な行動に出る可能性は否定できない。

「核の傘」は核武装への道

 朝鮮の核・ミサイル開発を止めるにはどうするのか。力ずくで止めるのか。指導者を殺害するのか。それは戦争と破滅への道だ。

 金正恩は、反米政権であったイラクのフセイン大統領、リビアの最高指導者カダフィが米軍に殺害されたのは報復手段である核兵器も持たなかったためと考えている。この「核抑止力」妄想を放棄させねばならない。それには当然、すべての核保有国が核放棄の立場にたつ必要がある。「核の傘」で安全保障をと主張する核保有国・同盟国も同じだ。

 核廃絶へのプロセスとして核拡散防止条約(NPT)が1970年に発効した。だが、核保有国は5か国からインド、イスラエル、パキスタンへと拡散した。紛争当事国が次々と核を手にした。だが今年7月、核兵器禁止条約が採択された。この条約は核兵器による威嚇をも禁止した。「核抑止力」に依拠することは違法であることを宣言した。

 この条約の採択を米政府とともに妨害したのが他ならない日本政府だった。安倍は日米軍事同盟による「核の傘」を当然視している。だが、日本は核に守られて、朝鮮は核に守られてはならないという理屈は通らない。

 米国内で日韓の独自核武装をめぐる論議が起こっていると言う(読売9/4)。元米政府高官はCNNテレビに、「米本国が核攻撃にさらされれば、核の傘に疑問が生じる。朝鮮に軍事的圧力を強めるには日本の核武装もあり得る」と語った。「日韓は独自核武装するだろう」との見方をする研究者もいる。唐突ではない。核抑止力を信奉する限り独自核武装に行きつくのだ。

 かつて安倍自身、核武装論を公言しており、自民党の石破茂元防衛大臣はテレビ番組(9/6)で「米国の核の傘で守ってもらうといいながら、日本国内には(核兵器を)置かないというのは本当に正しい議論なのか」と語った。米軍の核が期待できなければ、日本独自に核を持つ。戦争屋たちの策動を許さず、武力でなく対話解決を求める市民の声を強めなければならない。

(注)朝鮮の国名表記

 国名は当事国が使用するものを採用するのが基本。朝鮮半島は、日本の敗戦により植民地から解放された後、北部に朝鮮民主主義人民共和国、南部に大韓民国が成立。本来統一国家となるべきだったが分断状態に。どちらの政府を正当な国と見るかで呼称も異なってきた。週刊MDSは、両国とも正式な国連加盟国であり、当事国が使用する短縮名を採用し、朝鮮、韓国としている。政府やマスコミなどが「北朝鮮」とする一方で「南韓国」「南朝鮮」としないのは、朝鮮を対等な国と認めず、蔑視する姿勢を反映している。

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