2017年09月22日 1494号

【朝鮮人虐殺と小池知事/ヘイト団体と連携した追悼文拒絶/トランプと同じ極右ポピュリスト】

 「様々な見方があると捉えている」。東京都の小池百合子知事は、関東大震災時の朝鮮人虐殺についての認識をこう語った。デマを信じた民衆、警察、軍隊によって多くの朝鮮人が殺されたのは歴史的な「事実」だが、小池はこれを「歴史観」の問題にすり替えた。虐殺の事実を隠ぺいしたいのだろうが、それはいかなる動機によるものなのか。

民族差別が背景

 94年前に関東大震災が起きた9月1日、犠牲者を追悼する行事が各地で行われた。東京都墨田区の横網町(よこあみちょう)公園では、虐殺された朝鮮人の追悼式が営まれた。だが、都知事の追悼文読み上げが今年はなかった。歴代知事が行ってきた追悼文送付を小池知事が取りやめたからである。

 「別の式典ですべての震災犠牲者を追悼した」と小池は言う。重複を避けたという論理だ。しかし、自然災害による死と虐殺による死は質的に違う。震災直後、多くの朝鮮人が朝鮮人と見なされただけで、住民がつくる自警団や警察・軍隊によって殺された。それは民族差別に由来する集団殺戮(さつりく)であった。

 政府の中央防災会議が2008年にまとめた関東大震災の調査報告書は「広範な朝鮮人迫害の背景」をこう分析している。「当時、日本が朝鮮を支配し、その植民地支配に対する抵抗運動に直面して恐怖心を抱いていたことがあり、無理解と民族的な差別意識があったと考えられる」

 補足しよう。震災4年前の1919年3月、朝鮮全土で大規模な独立運動が展開された。日本の新聞はこれを「不逞鮮人(ふていせんじん)の反日暴動」と報道した。植えつけられた「朝鮮人は怖い」とのイメージ。それが大災害に直面した人びとの中で膨れ上がっていった。恐怖と不安が「朝鮮人が暴れている」「井戸に毒を入れた」などのデマを生み、事実と信じ込ませたのだ。

 警察や軍隊はデマを打ち消すどころか、率先して広め、さらには虐殺の実行者となった。治安対策を最優先する彼らは、震災の混乱に乗じた反政府暴動を何より恐れていた。だから「朝鮮人暴動」の噂に過剰反応し、弾圧の牙をむいたのである。

 前述の中央防災会議報告書は、朝鮮人虐殺を「日本の災害史上、最悪の事態」と規定する。そして「今後の防災活動においても念頭に置く必要がある」と述べている。当然であろう。行政には歴史の教訓に学び、同様の事態を防ぐ責任がある。大量殺人が実際に起きた場所の自治体首長ならなおのことだ。

虐殺の事実を隠す

 ところが小池は、虐殺された朝鮮人を特別に追悼する必要はないとした。民族差別とは無関係の事象であるかのような認識を示し、「虐殺」や「殺された」等の表現を一切使わない。あげくのはては「様々な見方があると捉えている」(9/1定例会見)と言い放った。歴史的事実をあいまいにし、「なかったこと」にしたいのだ。

 一連の動きは、極右・歴史修正主義者との連係プレイである。発端は3月都議会における古賀俊昭議員(自民)の質問だ。古賀は横網町公園の「朝鮮人追悼碑」に刻まれた「犠牲者六千余名」という表現を問題視。「知事が歴史を歪める行為に加担することになりかねず、追悼の辞の発信を再考すべき」と求めた。彼の背後には在特会系ヘイト団体「日本女性の会そよ風」の存在がある。小池は2010年12月、「そよ風」主催の講演会で講師を務めている。

 そもそも小池は、国会議員時代に歴史教科書攻撃の旗振り役を務めるなど、極右思想の持ち主である。今回の追悼文拒絶はコアな支持層の期待に応えての行為であり、極右政治家の本性があらわれたものといえよう。

「北朝鮮叩き」と連動

 さらに言うと、小池の背中を押したものがある。安倍政権がくり広げている「北朝鮮の脅威」キャンペーンだ。

 「北の核ミサイルが日本を狙う」式の言説があふれる中、朝鮮民族そのものを「日本の敵=悪」とみなす風潮が、それこそ小学生レベルにまで広がっている。このような状況で追悼文送付を継続すれば、ネトウヨ連中に「朝鮮人の味方」と叩かれる。逆に、歴代知事が続けてきたことを自分がやめれば「さすがは小池」と持てはやされる−−人気取りだけは熱心な小池の発想はこんなところだろう。

 都知事選の目玉公約に「韓国人学校への都有地貸与の撤回」を掲げた小池である。差別意識を煽動し政治目的に利用することに何の抵抗もない。彼女はトランプ米大統領と同じ「極右ポピュリスト」なのだ。排外主義の匂いが漂うキャッチフレーズ(アメリカファーストと都民ファースト)までそっくりだ。

   *  *  *

 小池の追悼文拒絶で勢いづいた「そよ風」は、1日の朝鮮人犠牲者追悼式に対抗し、同じ公園内で「慰霊祭」を行った。震災犠牲者の「慰霊」と銘打ってはいるが、「六千人虐殺は本当か! 日本人の名誉を守ろう!」との看板が示すように、実態は虐殺否定論者の決起集会である。

 集会には地元墨田区の大瀬康介区議が参加している。大瀬は「朝鮮人暴動は流言飛語ではなく事実。警察や自警団の行為は正当防衛だ」と主張。追悼碑の撤去を区議会で訴えていくと宣言した(リテラ・9/1配信)。これも「小池効果」というわけだ。

 政府が「北朝鮮の脅威」を煽る中、かつて最悪のヘイトクライム(憎悪犯罪)が発生した東京で、都知事自らがその史実を隠し、「朝鮮人暴動は本当にあった」というデマの拡散に手を貸している…。状況はきわめて危ういと言わざるを得ない。   (M)



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