2017年09月29日 1495号

【セクハラ争議勝利解決を祝う会/泣き虫≠ェ見せたうれし涙/今度は支える側に】

 東証一部上場(当時)企業Nと子会社Mが引き起こしたセクハラ事件。加害者は両社の社長2人、被害者はM社の新採1年目と2年目の2人の女性社員だ。セクハラは密室の犯行だけに立証は極めて困難といわれる。だが3年の闘いで被害者側の要求をのませ、勝利解決を勝ち取った。「祝う会」が9月8日神戸市内で開かれた。泣き虫≠セった女性が「次は支える人になっていきたい」と語った。ユニオン、弁護団、支援者は激励の拍手を送った。

計画的犯行

 事件は、2014年6月に起きた。社長2人は「1泊研修」を名目に、女性社員2人を京都のホテルに連れ出した。往路から女性だけに飲酒を強要、わいせつな行為にいたる。計画的犯行だ。事件を知った元N社の社員から「私もセクハラの被害者。退職に追い込まれた」とメールが届いた。あきれはてたセクハラ常習会社。被害者はまだまだ、いそうだ。

 2人の受けた精神的ショックは計り知れない。家族にも言えない。互いに支えあった。「泣き寝入りはしたくない」。だが、会社には相談できる人はいなかった。N社のセクハラ担当マネージャーに訴えるが対応せず。加害者に直接謝罪を求めるも「していない」と居直る。酔わせて性的暴行を行うのは刑法第178条第2項の準強姦罪。警察は「証拠がない」などと相手にしてくれない。男女機会均等法第11条は会社にセクハラ防止の必要な措置を義務付けている。厚労省が都道府県毎に設置する雇用環境・均等室に相談するも、動いてはくれない。

 フラッシュバック、不眠症状が続く。受診するにも医師に原因を説明するストレスが募る。相談した弁護士から労働組合「なかまユニオン」を紹介され、加盟した。新たな闘いが始まった。

当事者の決意

 M社との団体交渉は14年10月から4回。社長は姿を見せない。代理人弁護士は2人の話をすべて否定。団交を打ち切ってきた。

 なかまユニオンは街頭に出た。15年5月から社前で、最寄り駅でセクハラの事実を明らかにした。労働争議の総行動、ZENKOなどの場で支援を訴えた。数々の労働争議に勝利してきたなかまユニオンだが、セクハラ事件を全組合あげて闘うのは初めてだった。井手窪啓一委員長は「組合の中で2次被害は絶対起こすまいと、細心の注意を払った」と語っている。加害者が行為を認めず、団交にすら応じない。社会的に責任を問う以外にない。支援者から抗議FAXも送った。加害者社長の自宅周辺で抗議デモを行った。

 会社は被害者とユニオンを名誉棄損で訴える暴挙に出た。あくまで、しらを切るつもりだ。「謝罪の言葉は聞けるのか、同僚に裏切られはしないか」。そんな不安を乗り越え、16年2月、反訴状を提出。事件の内容を詳細に記した。

 当時の2人の様子を代理人康(かん)由美弁護士がこう表現した。「最初から、最後まで泣きっぱなし。何を聞いても泣いていた」。16年11月と17年2月に裁判所で和解協議があった。加害者側はわずかな金額でごまかそうとした。「納得できない」。代理人の一人、養父(ようふ)知美弁護士は「加害者はバレないと高をくくっていた。勝つか負けるかは、裁判官がどっちの言うことが信頼できるかと思うかだ」と語る。

 勝利に近づく大きな転機があった。17年5月、本人尋問。この日から裁判官3人の合議体となった。被害者は「真実しか話せない」と事件の詳細を気丈にも証言した。「役立たずを採用してやった。逆恨みされた」とデマを連発する社長に裁判長は聞いた。「結婚されていますか?お子さんは?」

勝利の力

 それから1か月後、被害者側が納得できる和解条項が交わされた。「N社は今後同種の事態が生じないよう十分な配慮をすることを約束する」。セクハラ事件では高いレベルの解決金が示された。ただ1つ、会社側が注文をつけた。業界名、会社名、所在地など加害者を特定できる情報を消してくれというのだ。ブラック企業の後ろめたさが表れた。

 セクハラは犯罪だ。これを労働問題としていかに闘うか。1つの典型例になった。ユニオンの代理人普門大輔弁護士は「おみごと」と称賛した。労組内にも男女差別や正規・非正規の差が存在する現実がある。今回、被害者に寄り添う組合活動に徹したことを評価した。

 「祝う会」には支援者ら50人以上が集い、当事者とユニオンの闘いに惜しみない拍手を送った。最後に2人があいさつ。「最初の頃、解決するのか不安だった。これだけの人が支えてくれ…」。涙で言葉が続かない。3年間の闘いは悔し涙をうれし涙にかえた。「花束は初めて。それもこんな素敵な花束を。支援があったから最後までできた。次は他の人を支えられるような人になろうと思っている」

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