2017年09月29日 1495号

【NHKスペシャル/スクープドキュメント 沖縄と核/制作・著作 NHK沖縄 初回放送9月10日/日米の合作による“核の島”】

 NHKスペシャル『スクープドキュメント 沖縄と核』(NHK沖縄制作)が大きな反響を呼んでいる。日米両政府の思惑によって「世界最大級の核拠点」にされてきた沖縄。番組は新資料と関係者の証言によって、その知られざる歴史に光をあてた。安倍政権が「北朝鮮の脅威」を声高に叫ぶ今、これは決して過去の話ではない。

 番組紹介の前に、テレビ報道の現状について少し触れておきたい。

 共謀罪法案が審議中だった4月24日、NHKは米国家安全保障局(NSA)の機密文書をもとに、米国製の大量監視システムが日本に提供されていたと報じた。国民総監視の技術を日本政府がすでに持っていることを明らかにしたスクープである。

 ところが、この問題を特集した番組(クローズアップ現代+)は共謀罪の話を一切しなかった。「日米の情報共有は良いこと」と語るゲスト解説者まで配置した。政権の意向を忖度(そんたく)したとしか思えない「配慮」でスクープの衝撃力を自ら弱めたのである。

 このように、政府の顔色ばかりを窺(うかが)う「自主規制」がテレビ業界に広がっている。今回紹介する『沖縄と核』でも「安倍政権」という言葉は一度も出てこない。しかし、直接の言及はなくとも、番組が発掘した新事実の数々は政府の沖縄政策を鋭く告発するものだ。調査報道の力作として高く評価したい。

あわや那覇壊滅

 米軍統治下の沖縄にはピーク時で約1300発もの核兵器が配備・貯蔵されていた。この核が破滅の危機を何度も沖縄にもたらしていた。当時現場にいた米兵たちが語る衝撃の事実である。

 核ミサイルの整備を担当していたロバート・レプキーさん(81)。1959年6月に発生した重大事故の詳細を初めて打ち明けた。那覇市街に隣接した基地(現在の那覇空港がある場所)で、整備兵の操作ミスにより、核弾頭を搭載したミサイルが発射されてしまったのだ。

 ミサイルは海中に没し、極秘裏に回収された。核弾頭の威力は広島に投下された原爆と同じ20キロトン。「爆発していたら那覇が吹き飛んでいた。沖縄の人びとには事故のことを知る権利がある」とレプキーさんは言う。

 嘉手納の核弾薬庫で任務にあたっていたポール・カーペンターさん(78)。1962年のキューバ危機の際には、核兵器搭載用のプルトニウムを韓国の空軍基地に輸送した。全面核戦争の危機。「沖縄が終わるだろうと思っていました。米軍の最重要基地である沖縄を、ソ連が核攻撃しないはずがありません」

 戦争は土壇場で回避されたが、危機はその後もくり返された。安倍首相は今、「これまでにない深刻かつ重大な脅威」という表現で「北朝鮮危機」を煽り立てている。はたしてそうか。核戦争の「最前線」に置かれてきた沖縄の歴史を無視している。

核が基地を広げた

 米軍基地の拡張にも核が密接に関係していた。海兵隊の沖縄移転は「本土」ではできない核配備のためだった。その影響を最も受けたのが伊江島である。米軍は「銃剣とブルドーザー」によって土地を強奪し、核爆弾投下の訓練場を作った。模擬核爆弾の爆発に巻き込まれ、住民が死亡する事故も発生した。

 やがて核兵器の存在は沖縄の人びとの知るところとなった。配備撤回を求める沖縄の人びとの切実な声を日本政府はどう受け止めたのか。当時の外務大臣・小坂善太郎が米国務長官ラスクに懇願する様子が記録されていた。

 「沖縄に武器を持ち込まれる際、事前にいちいち発表されるため議論が起きているが、これを事前に発表しないことにできないか」「事後に判明する場合には、いまさら騒いでも仕方ないということで議論は割合に起きない。事前に発表されると、日本政府が責められる結果になる」

 これが日本の国務大臣かと情けなくなる。補足すると、日本政府はオスプレイでも同じことをした。米軍が通告した配備計画を沖縄には黙っていたのである。度し難い隠蔽体質というほかない。

沖縄を選んだ日本政府

 1969年、日米両政府は沖縄返還で合意した。核兵器も撤去されたかのようにみえた。しかし、その裏で「緊急時には再び沖縄に核兵器を持ちこむ。嘉手納、那覇、辺野古の核弾薬庫を使用可能な状態で維持しておく」との密約が結ばれた。当時の総理大臣は佐藤栄作。安倍現首相の大叔父にあたる人物だ。

 昨年11月に94歳で死去したメルビン・レアード元国防長官。その2か月前、取材班は核密約に関わる重大な証言を得ていた。「核を沖縄に持ち込まないのなら、他の場所を探さなければならない。結局、日本は沖縄を選んだ。それが日本政府の立場だったよ。公にはできないだろうがね」

 現在に続く沖縄基地問題の本質を凝縮した発言といえる。戦争中、米軍統治下、そして現在と、沖縄は日本政府によって「捨て石」にされてきたのである。

 米国防総省は番組の取材に対し、「沖縄における核兵器の有無については回答しない」と答えた。日本政府は「核の持ち込みはいかなる場合も認めない」との公式見解をくり返した。これを真に受ける視聴者はいないだろう。番組を見終えて、「政府は平気でウソをつく」ことを痛感したはずである。

 「核の島・沖縄」は過去の話ではない。戦争屋が核をもてあそび、人びとを破滅の危機に陥れている構図は今も変わっていないのだ。 (M)



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