2017年09月29日 1495号

【どくしょ室/崩れた原発「経済神話」 柏崎刈羽原発から再稼働を問う/新潟日報社原発問題特別取材班/明石書店/本体2000円+税/データで暴く「経済効果」のウソ】

 福島原発事故を経て、それまで日本人が漠然と抱いていた原発の「安全神話」は完全に崩壊した。原子力規制委員会による形だけの「審査」に合格しても、原発が安全だと信じる人などまずいない。世論調査でも再稼働反対が常に50〜60%台を占める。にもかかわらず、圧倒的多数の民意を無視して日本では原発が再稼働に向かう。なぜなのか。

 3・11後も崩壊せずに残った最後の神話がある。原発が再稼働すれば地元経済が潤う。旅館や商店街が活性化する―。原発推進派や大手メディアが再稼働をあおるときに必ず持ち出すこれらの言説を本書は原発「経済神話」と呼び、データによってその化けの皮をひとつひとつはがしていく。

 柏崎刈羽原発の地元紙・新潟日報取材班は、無作為抽出した柏崎市など地元企業100社の経営者と直接面談し尋ねる。「原発全基停止による売り上げの減少があるか」との質問に対して、3分の2に当たる67社は「ない」。原発による「間接的な経済効果」を尋ねても、半分近い48社が「なかった」と答えている。柏崎市の主要4産業における過去40年の就業者数、市内総生産額の推移を原発のない周辺各市と比較してもその差はなかった。「原発で地域振興」が根拠のない神話であることが調査で立証された意義は大きい。

 多くの地元企業経営者が反原発の世論、原発の危険性と地域振興の狭間(はざま)で揺れる姿も見えてくる。福島の現実を彼らにもっと伝えることで脱原発はさらに確かなものになる。

 新潟が東京の「電力植民地」化していった経緯を、明治期の電力開発にさかのぼって歴史的に検証した本書後半部分も読みごたえがある。資本家が資金を集め、電力開発は信濃川の水力から始まった。民間事業のため、開発に当たる企業の視線は常に大消費地・首都圏に向いていた。新潟県内のダムから発電された電力は首都圏に送り出され、新潟は電力不足にあえいだ。

 敗戦後、日本の電力政策の問題点がこうした「植民地主義」にあると見たGHQ(連合国軍総司令部)は「属地主義」に基づき、電力会社に自社の営業区域外への送電を禁止する新体制を提案。新潟は東京電力から切り離され「信越電力」となっていた。「地元で作られた電力がやっと自分たちのものになる」と新潟の人々は湧いた。だが、この案は電力会社と日本政府一体となったGHQへの猛烈なロビー活動によって消え、新潟は電力植民地状態が現在まで続くことになる。

 重要な社会資本であり公共性の高い電力が利益優先の私企業に独占されたことの矛盾、植民地主義の矛盾を歴史的、俯瞰的に解明した労作だ。電力国有化と電力政策民主化が問題唯一の解決策だと理解できる。原発立地自治体との交渉にも有益なデータが詰まっている。立地地域の人びとにこそ本書を贈りたい。(C)
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