2017年10月06日 1496号

【命を削って何が「人づくり」か 軍拡のために社会保障削減 戦争・貧困推進の安倍にノー】

 大義なき解散・衆院選の名目づくりに、安倍首相は「消費税の使途変更」や社会保障費、教育費問題にも言及する。だが、その正体は8月末の2018年度予算概算要求で明らかだ。政府が策定済みの「経済・財政再生計画」と「改革工程表」に基づく概算要求の大きな特徴は、軍事費を増やす一方で社会保障費を削ることだ。大軍拡のために市民の生活を犠牲にするものである。

社会保障削減で軍事費拡大

 「経済・財政再生計画」は、財政健全化のために社会保障費の伸びの「抑制」などを軸としている。「改革工程表」は、「経済・財政再生計画」で定めた「目安」を実行するために削減計画を項目ごとに列挙する。総じて、社会保障を削減の標的とするものだ。

 高齢化などに伴い現状の福祉水準維持に必要な社会保障費自然増は、本来であれば約1兆円。ところが、概算要求の段階で6300億円の範囲内に収めることが閣議了承されている。つまり現水準から最低でも3700億円分の抑制=削減に加え、予算編成ではさらに1300億円が削減される予定だ。

 

 一方、増額要求されたのが軍事費や公共事業費である。

 軍事費は4年連続で過去最大を更新しており、「弾道ミサイル防衛」関連経費1751億円、護衛艦2隻の建造費964億円をはじめ5兆2551億円に膨れ上がった。軍拡がどんどん進められている。

 公共事業費を見ると、三大都市圏環状道路等の整備の推進などを含む「効率的な物流ネットワークの強化」2784億円、「整備新幹線の着実な整備」755億円などが計上された。「生産性の向上と新需要の創出による成長力の強化」を掲げて大型開発を進めようとしているのだ。

 安倍政権は重視する事業に特別枠を設けてきた。既存事業の見直しで財源をつくり、新たな事業に重点配分する仕組みなのだが、基準があいまいなため特別枠が「各省庁の増額要求の受け皿」(9/7朝日)になっているのが実態だ。18年度要求では約3兆9000億円となっている。

社会保障が成長を阻害?

 安倍政権の経済・財政の基本方針「骨太の方針2017」は「医療・介護提供体制の適正化」「公的サービスの産業化」「負担能力に応じた公平な負担、給付の適正化」「薬価、調剤等の診療報酬及び医薬品等に係る改革」など7分野で「44の改革項目について、改革工程表に沿って着実に改革を実行していく」としている。社会保障費削減策を明記しているのである。

 すでに16年度から3年間を「集中改革期間」として社会保障費1・5兆円を削減する方針を実行しており、18年度も「5000億円抑制」を既定路線とする。自然増の削減3700億円+1300億円削減を強行する予定だ。

 来年度に診療報酬と介護報酬が同時改定される。安倍政権はこの機会を悪用して費用削減を狙っている。診療報酬を1%削減すれば約1000億円が削減できるといい、薬や医療材料の価格を下げる方法が検討されている。

 これらの根底に、社会保障が経済成長を阻害しているという考え方がある。「経済・財政再生計画」を定めた「経済財政運営と改革の基本方針2015」は、「社会保障給付の増加を抑制することは個人や企業の保険料等の負担の増加を抑制することにほかならず、国民負担の増加の抑制は消費や投資の活性化を通じて経済成長にも寄与する」とまで言っている。

 だが、この考え方は現実を見ない暴論≠ナしかない。社会保障を縮小するとどうなるか。たとえば厚労省の調査結果では、16年度の介護予防サービスの利用者数が減少に転じたとある。高齢化が進んでいるにもかかわらず利用減少になるのは明らかに利用抑制策が影響したからだ。社会保障費削減の主な対象が医療・介護となっており、ますます受診とサービス利用から遠ざけられる。いのちと健康を壊しておいて経済成長ができるわけがない。

軍拡より社会保障拡充を

 8月から電気・ガス料金が値上げされ、9月以降も食料品や宅配便などの値上げが予定されている。収入減と支出増の中で、これらの値上げは生活を直撃する。だからこそ生活安定のために社会保障拡充が必要となっている。

 防衛省は昨年度より約1300億円の上乗せ要求をしている。これは18年度社会保障費の削減額と同額であり、軍拡要求を却下するだけでこの1300億円削減をしなくていい。武器などの増強は攻撃能力を高め、緊迫する東アジア地域の安定を乱す。軍事費こそまず削減の対象でなければならない。加えて人間の尊厳を守れる社会保障費の抜本的拡充へ、富裕層や大企業などへの課税強化に踏み出さなければならない。
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