2017年10月06日 1496号

【ドクター 周産期死亡率ゆがめる不当な操作】

 福島原発事故後に周産期(妊娠22週以後から生後1週間)の赤ちゃんの死亡率が増加したとの論文を、高名なドイツの生物統計の専門家シャアプ氏と医問研の森・林の共著で発表したことは、本紙が詳しく掲載してくれました。

 また、共同通信の記事、ネットでの拡散、全交の環境省交渉などでも取り上げられました。

 そのためか、環境省が年間1千万を限度とした研究費を「公募」し、福島県立医大の高橋秀人教授が周産期問題などの報告書を2年間分出しています。1年目の報告はごく簡単であいまいな結論ですが、2年目の報告は明確な結論を出しています。

 高橋氏は「情報管理統計室長」だけに、周産期死亡は「宮城県、群馬県では…増加、福島県では減少、全国・山形・茨城・栃木では…有意な変化なし(→だから原発と関係ない)」との結論を巧妙に導き出したのです。

 しかし、我々の論文を参考文献としていながら、その分析の方法や結果を一切無視してまったく逆の結論を導き出しています。このような手法は科学的研究では許されないことです。

 少なくとも、我々の論文の統計処理方法についてどこがどう問題だ、との論証が必要です。なにしろ、まったく同じデータを使っているのですから、逆の結論が出るには、よほどの問題点がありその変更が必要となります。

 高橋氏の「変更」は、例えば複数県をまとめた我々と違い、各県をバラバラに検討しています。こうすると各県の周産期死亡数はそれほど多くないので、はっきりした差がでにくく、増えたのか減ったのか不明になるのです。それでも、我々の計算では福島県だけでも有意に増加していました。そこで、高橋氏は次の手を打ちます。観察年数をずっと短くするのです。すると観察人数が少なくなる、などでごまかせるのです。これはもはや「変更」ではなく不当な操作です。

 その他の不当な操作もありますが、ともかくこのような報告が出れば、我々の論文では増加したとしているが、高橋氏の分析では増加していない、と全交との交渉では反論できるし、一般の方々には、何が何だかわからなくする煙幕のような効果を現わします。これで、2年間で2000万円もの予算をつけた訳がわかります。

 科学的に証明されている原発事故による危険性を隠すために、貴重な人材と予算を使う現政権は、他方で、金正恩政権のミサイルの脅威をことさらに強調しています。しかも、金正恩政権を挑発しているのです。原発の危険性は頭にないようです。

 こんな危ない政権は来る衆議院選挙で葬り去らなければなりません。

(筆者は小児科医)
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