2017年10月27日 1499号

【未来への責任(235)韓国人元徴用工裁判 和解から20年】

 1995年9月、岩手県の日本製鉄株式会社釜石製鉄所に戦時中強制連行され、艦砲戦災や労働災害で亡くなった韓国人労働者の遺族11人が、遺骨や未払金の返還等を求めて東京地裁に提訴した。2年後の1997年9月18日の裁判外和解から今年9月で20年となった。

 合意した和解内容は以下のようだった。(1)遺骨未返還の原告10名(戦災犠牲者の遺族)に対し、一人当たり総額200万円を支払う。労災死亡者の遺族に対し、5万円を支払う(2)釜石製鉄所内にある鎮魂社に、原告の親族以外の韓国人犠牲者をも含めた25名全員の戦災犠牲者名簿を奉納し、かつ、合祀祭を行う。これに出席する原告の旅費を負担する(3)韓国における慰霊に関わる費用の一部について負担する(総額1千万ウォン)。

 新日鉄は和解について、「遺骨の調査は当初から人道的見地に立って鋭意調査すると申し上げ、釜石での調査と韓国での原告との共同聞き取り調査の結果も既に裁判所に報告した。調査にもかかわらず、遺骨の所在が判然としないことが分かった今、これまで遺骨がなかったため故人の霊を鎮めることができなかった原告の事情を察し、慰霊のために協力することにした」とコメントした(1997年9月22日、東京新聞)。コメントにある「釜石での調査」の様子は、1996年8月15日放映NHKスペシャル『51年目の戦争責任 強制連行と日本企業』でも取り上げられ、和解後の韓国での協力金手渡しの様子もNHKニュースで放映された。新日鉄が彼らなりの誠意と覚悟をもって事実に向き合い、和解に応じたことが伝わってくる。

 2007年8月には、和解10周年として、韓国の遺族が釜石市主催の戦没者追悼式にも出席し、釜石製鉄所の神社で慰霊祭も挙行。市民との交流会も行われた。この時の釜石市役所や市民との交流が、昨年から取り組まれている韓国人犠牲者を含む艦砲戦災犠牲者再調査事業にもつながっている。和解は終わりではなく新たな交流の始まりでもあった。

 2013年11月6日、日本経済団体連合会等経済4団体は声明を発表し、「朝鮮半島出身の旧民間徴用工等に関する日本企業への請求権問題については、今後の韓国への投資やビジネスを進める上での障害になりかねず、ひいては、両国間の貿易投資関係が冷え込むなど、良好な両国経済関係を損ないかねないものと深く憂慮いたします」と、早急な解決を訴えた。

 それから、4年。韓国では過去史清算を掲げる文在寅(ムンジェイン)政権が誕生し、日韓関係は大きな転換点を迎えている。排外主義的な安倍政権に任せていては日韓関係の好転は望めない。企業自らが事実に真剣に向き合うべきだ。それこそが持続的な関係構築につながることを、1997年の和解は示している。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 山本直好)
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