2017年10月27日 1499号

【福島生業訴訟で勝利判決 国・東電の責任認定/中間指針上回る賠償命じる】

 原発事故被害者が国と東京電力を相手取って起こした全国の集団訴訟で最大規模となる「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の判決が10月10日、福島地裁で言い渡された。

言い逃れ許さず

 国の法的責任と東電の過失を認め、原告約3800人のうち約2900人に総額約5億円の損害賠償を命じた。集団訴訟の判決は3件目。事故の最も深刻な被害地における原告勝訴の持つ意味は重い。

 判決は、国が地震調査研究推進本部の2002年「長期評価」に基づいて対策をとっていれば「全交流電源喪失による本件事故は回避可能であった」と指摘し、「長期評価」を一部の見解にすぎないとして無視してきた国の誤りを断罪。「想定外」との言い逃れは、国を免罪した9月千葉地裁判決も含めてすべて否定され、津波は予見できたとする判例はこれで不動のものとなった。

 空間線量を事故前の年間0・04マイクロシーベルト以下にせよとの原状回復請求は「不適法」を理由に棄却され、0・04マイクロシーベルト以下になるまでの月5万円の慰謝料将来分の請求も退けられた。ふるさと喪失慰謝料は、帰還困難区域居住者への一括払いに含まれるとして認められなかった。

 しかし、原状回復請求に対しては「事故前の状態に戻してほしいとの原告らの切実な思いに基づく請求であって、心情的には理解できる」と理解を示した。平穏生活権について「妨げられない平穏な生活には、生業を営み、家族・生活環境・地域コミュニティとの関わりで人格を形成し、幸福を追求していくという、人の全人格的な生活が広く含まれる」と述べて、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針よりも賠償対象地域を拡大し、額を上乗せした。

 福島市・郡山市など中通りやいわき市の区域外避難者について、事故当時年間20ミリシーベルトを超える地域もあったことを理由に「実際に避難することもやむを得ない選択の一つだった」と認定。10か月間で16万円の上積みを命じた。

“一つ一つ積み上げる”

 福島地裁前には約600人がかけつけた。午後2時すぎ、弁護団が「勝訴」の垂れ幕を掲げると、「やったぞ」と歓声が上がった。涙を流す原告、抱き合って喜び合う弁護士・支援者。笑顔にあふれた。馬奈木(まなぎ)厳太郎(いずたろう)弁護団事務局長がマイクを握り、第一報。「長期評価は『客観的かつ合理的根拠を有する知見』であり、『東電に対して非常用電源設備を技術基準に適合させるよう行政指導、命令を発すべきだったが行わなかった』と国を断罪した。損害賠償では、中間指針の範囲と額を超える賠償、福島県外の一部への賠償を認めた。勝ちました」。一段と大きな拍手が起こった。

 報告集会で原告団長の中島孝さんは、これまでの闘いを振り返りつつ「主張の一丁目一番地を完全に勝ち取った。損害賠償額は削られたが、被害救済の大きな足がかりになった」と語った。

 判決では、“国の責任は二次的で責任の範囲は東電の2分の1”“東電の過失は認めるが重過失ではない”“避難・追加賠償の判断基準は年間20ミリシーベルト以上”“区域外避難の賠償期間は2011年末までに限定”“会津若松市や栃木県は対象外”とされたことなど、引き続く各地の訴訟の課題が浮き彫りにされた。馬奈木弁護士は「一つの裁判ですべてが得られることはむずかしい。同じ論点で全国で争っているので、判例を一つ一つ積み上げていくことができる。成果を踏まえ、控訴も含め、みなさんとともに闘い続ける」と決意を述べた。

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