2017年11月03日 1500号

【イラクと日本 クルド民衆が独立へ住民投票 軍事介入許さず平和と共生へ】

 2017年9月25日、イラク北部のクルディスタン自治政府がイラクからの独立の賛否を問う住民投票を実施した。有権者数約460万人、投票率は約73%で賛成票が約93%を占めたと発表された。

 約3000万人の人口を持つ「国家を持たない最大の民族」とされるクルド人は、歴史的に欧米の列強が自らの利害に基づいてこの地域の国境線を引いたという経過から、イラク、トルコ、シリア、イランにまたがる地域に居住している。その各国で中央政府から抑圧を受けてきた。独立国家を持つかどうかの決定はクルド人自身の権利だ。

 「今やクルディスタン民衆が待望の未来についての決定をするための住民投票という最も基本的な権利を行使した」(クルディスタン労働者共産党)のである。


投票否定するイラク政府

 しかし、イラクのアバディ首相は「住民投票の結果は無効だ。イラク政府は今回の結果に基づく交渉には一切応じない」と主張し、自治区のアルビルとスレイマニヤにある国際空港を発着する国際線の運航を禁止した。

 イランも自治区との原油・石油製品の運搬を停止するよう国内外の運送会社に命じた。

 トルコのエルドアン大統領は、自治政府にとって原油輸出の大動脈である石油パイプラインを遮断すると威嚇し、クルド地域への軍事侵攻も辞さないと警告した。

 米国のティラーソン国務長官は「住民投票は一方的。投票結果は正当性に欠ける」と批判している。

 クルディスタン自治政府のバルザーニ議長は2015年に任期が切れてからも現在のポストに居座り、過去2年間にわたって議会も開いていなかった。この自治政府もイラク中央政府と同様に汚職が横行し、賃金の遅配など労働者の権利を抑圧している。バルザーニが独立のための住民投票を実施したのは、イラクの石油産出量の3分の1とされる豊かな石油資源などの利権を自らが支配するためだ。

 現在、イラク政府とクルディスタン自治政府の対立はさらにエスカレートしている。

 クルディスタン自治政府は1万人のクルド人部隊(ペシュメルガ)が駐留するキルクーク油田に6000人の部隊を増派した。

 これに対してイラク政府軍は10月16日、キルクークに地上軍を派遣し、最大規模の2油田を掌握した。イラク政府は英国の石油会社BPに油田の開発協力を要請している。

 10月20日には、キルクーク近郊のアルトゥンクプリでイラク政府軍がペシュメルガと交戦する事態に及んでいる。すでにキルクークから住民10万人が退避している。

 IS(「イスラム国」)の暴力支配もまだ続いている中で、イラク・中東地域でまたもや内戦とグローバル資本による軍事介入の危機が強まっている。

分断を許さず平和的共生

 イラク労働者共産党とクルディスタン労働者共産党は、クルディスタンとイラクでクルド・ブルジョアジーや民族主義政権に対する労働者階級と大衆の闘いを作り出すこと、特に「クルディスタン地域に対する戦争の開始となる経済封鎖」に反対し、「クルディスタンに対する軍隊の進軍を止めるために大規模な大衆運動を」と呼びかけている。それは民族や宗教、宗派による民衆の分断を許さず、「市民と平和的な共生を基にした社会関係を強化」することをめざす闘いである。

 日本政府は2003年のイラク戦争以来、6000億円近い経済援助をイラク政府に与え、民衆抑圧と軍事支配を支えてきた。アバディ政権への支援をやめさせ、クルディスタン、イラクの平和で民主的な社会をめざす闘いに連帯しよう。

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