2017年11月03日 1500号

【TVの世界 第8回 権力者に好都合の記者クラブ】

 きょうは、記者クラブ制度の問題点を論じたい。記者クラブは、原則的に新聞社、NHK、民放キー局、通信社など大手メディアに所属する記者のみで構成される独占的・排他的な取材共同体組織である。英語では、「kisya club」と表記されることからも分かるように、外国には無い日本独特の制度である。

 テレビの映像でお馴染みの首相官邸の記者会見室。記者が待つ会見場に菅義偉(よしひで)官房長官が入って来て記者会見が始まる。「NHKの〇〇です」など、社名と記者名を名乗って記者が質問し、それに長官が答える形で会見は進行する。手を挙げて指名されると質問できるが、あくまでも指名する権限は取材される政府側にある。菅官房長官にしつこく(いや、粘り強く)食い下がって質問して有名になった東京新聞社会部の望月衣塑子(いそこ)記者のように、批判的な視点をしっかり持って質問・取材する記者は稀であり、たいていは当たり障りの無い無難なお伺い質問に終始して、時間が来ると記者会見は終了する。

 この他、「ぶら下がり」と呼ばれる囲み会見など、取材の多くは記者クラブ加盟社のみで行われ、加盟社以外の地方紙記者、雑誌社記者、「赤旗」など政党機関紙記者、フリージャーナリストなどは取材・記者会見に参加できないことが多い。私自身も、日本テレビを退職してからは政治家の取材を行うのが非常に困難になり、質問する機会は事実上奪われている。

 日本新聞協会は、記者クラブの機能を「公的情報の迅速・的確な報道」と定義しているが、記者クラブに加盟していない者が取材できないのは不当な差別であり、経済協力開発機構、欧州議会などから改善勧告を受けている。

 現在約800の記者クラブがあり、中央省庁、国会、政党、地方自治体、業界団体などに記者クラブが置かれ、記者が常駐している。省庁が記者クラブに部屋を提供し、広報担当者が情報を提供して取材の便宜を図っている。取材する側から見れば取材が迅速にできるメリットがあり、取材される側から見れば、提供する情報を限定して管理しやすくするメリットがある。いわば持ちつ持たれつの関係が生じて緊張感が無くなり、権力の監視という報道機関の使命が果たせなくなる危険性を生み出しているのが最大の問題点だと言える。各社横並びの報道になりやすく、独自の調査報道が少なくなる原因となっているのは問題だ。

 ジャーナリストがほとんどいなくなってしまった日本。権力者には好都合の環境だ。

(フリージャーナリスト)
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