2017年11月03日 1500号

【語られなかった「国難」/「沖縄」「原発」無視した安倍首相/国策被害者は守る気なし】

 自民党が単独で284議席を獲得した衆院選。安倍晋三首相は「北朝鮮の脅威」を訴え、「国難突破」の選挙だと強調した。その一方で、沖縄の基地問題や福島原発事故の問題はほとんど語らなかった。「この国を守り抜く」と言いながら、基地や原発という「国策被害」に苦しめられている人は守るべき対象ではないらしい。

沖縄にとっての「国難」

 公示翌日の10月11日、米軍の大型輸送ヘリコプターCH53Eが沖縄県東村高江の牧草地で大破、炎上した。事故現場から最も近い民家までの距離は300メートルほどしかない。牧草地の所有者は「本来ならきのう収穫に入っていた。たまたま作業が遅れて災害を逃れた」(10/13琉球新報)と恐怖を語る。

 現場を視察した翁長雄志・沖縄県知事は「悲しさや悔しさ、怒りを感じる。こんな状況を国に強いられていることが、沖縄にとっては国難だ」(10/12)と述べた。米軍の事故を“国(日本政府)が沖縄に強いた災難”と表現するのには理由がある。

 米軍北部訓練場を抱える東村では米軍機の事故が頻発している。1999年4月には今回の事故機と同型のヘリが夜間飛行訓練中に墜落、乗組員4人が死亡した。MV22オスプレイの前身機であるCH46輸送ヘリはこれまでに4回、北部訓練場に墜落した。

 この北部訓練場の一部返還が昨年12月に決まり、安倍政権は「沖縄の負担軽減」と胸を張った。だが、返還の条件として米軍用のヘリコプター着陸帯(ヘリパッド)が住民の反対運動を抑え込んで建設された。高江の集落は6か所のヘリパッドで囲まれ、地元住民は「基地被害が増した」と感じている。

 高江に住む西銘美恵子さんは「政府は面積さえ返さば負担軽減になっていると思っているのか。騒音は相当ひどくなっている。いつも低空飛行でこの音は危ないというのがしょっちゅうある」(10/13琉球新報)と憤る。今回の墜落事故は起こるべくして起きたということだ。

地位協定が妨げ

 米軍事故はなぜくり返されるのか。その一因として日米地位協定の存在がある。同協定の関連文書では、米軍の同意なしに、日本側には米軍財産にあたる機体の捜索や差し押さえを行う権限はないとされる。事故原因の検証もできないまま、事故を起こした米軍の判断で飛行が再開される。これでは再発防止などできるはずがない。

 大体、米軍機が危険な訓練を好き勝手に行えるのは、地位協定にもとづく特例法により、航空法の安全規定が適用されないことになっているからだ。軍事優先の論理がまかりとおり、住民の安全が置き去りにされる。それがこの国の現実だ。

 事故当日、テレビ出演した安倍首相は「大変遺憾。安全第一で考えてもらわなければ困る」と語った(10/11「報道ステーション」)。選挙期間中を意識しての発言であろう。だが、ヘリパッドを造った高江で事故が起きたことをキャスターに指摘され、「本当に負担軽減といえるのか」と聞かれても、質問を無視してしゃべり続けた。

 結局、米軍はCH53Eの飛行を10月18日に再開(3面参照)。安倍首相は抗議のコメントひとつ出さなかった。

再稼働にも触れず

 国難といえば、東京電力福島第一原子力発電所の大事故は、国家存亡の危機という意味でも、国策がもたらした災厄という意味でも、本物の国難である。大量にまき散らされた放射性物質による被害は今も続き、事故収束の目途すら立っていない。

 それなのに安倍首相は「原発事故はもう終わった」といわんばかりの態度をとっている。公示日の10月10日、福島市内で第一声を発したものの、原発の再稼働については一言も語らなかった。12日には、東京電力柏崎刈羽原発に近い新潟県長岡市で街頭演説を行ったが、ここでも再稼働に言及しなかった。

 このように、安倍首相は原発問題にはだんまりを決め込んだ。経済産業省の幹部は「原発について話しても、支持を失うだけだ」(10/15朝日)とあけすけに語る。やれ「国難突破」だと言いながら、本物の国難からは逃げまくる。それが安倍晋三という政治家の本性なのだ。

    *  *  *

 じり貧状態に陥った安倍首相が「ボク難」突破のために仕掛けた解散総選挙。賭けの結果が“吉”と出たことで、「力強い支持を国民からいただいた」(10/23首相会見)として、改憲・戦争国家づくりや原発再稼働政策を推し進めてくるだろう。

 琉球大学の高良(たから)鉄美教授は「米軍のヘリはまた落ちた。これは北朝鮮のミサイルよりも具体的な問題だ。本土で同じことが起きないためにも、米軍問題を自分たちの問題として考えることが必要だ」と指摘する(10/14東京)。

 そうなのだ。高江のヘリ墜落事故は朝鮮半島情勢の緊迫化により軍事演習が激化する中で起きた。「北朝鮮への圧力強化」を声高に叫ぶ安倍首相の暴走を許していたら、戦争の災厄が私たちにも確実に降り注ぐ。また、政府・電力会社の無責任体質を考えると、原発再稼働は危険すぎる。

 各種世論調査をみると、半数が安倍政権の継続を望んでいない。御用メディア筆頭の読売新聞ですら、今回の選挙結果を「首相全面支持ではない」(10/23社説)とみている。安倍政権は危機を脱したわけではない。本紙読者の方には「釈迦(しゃか)に説法」だと思うが、悲憤慷慨(ひふんこうがい)している場合ではないのである。  (M)



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