2017年11月10日 1501号

【「改憲勢力8割」は 一枚岩ではない/市民・野党共闘で安倍退陣】

改憲加速の危険性

 10月22日の衆院選で自民党は284議席と単独過半数を得た。公明の29議席を合わせれば、憲法改正発議が可能な3分の2以上を確保したこととなる。これに、改憲補完勢力である希望の党50人、維新11人を含めると、衆院の8割が改憲勢力で占められた。

 自民党は、これまでの選挙で改憲についてはマニュフェストの最後に数行書き込むだけだった。今回の衆院選では「重点政策」の一つとした。

 安倍は今年5月の「2020年の改正憲法施行を目指す」との発言を修正し、衆院選後も「スケジュールありきではない」と発言しているが、「大勝」を口実にいつ覆すか分かったものではない。選挙後の記者会見で、改憲発議には立憲も含めて合意を図るのかとの質問に、「合意形成をするための努力をする」としつつ、「皆様すべてのご理解を頂けるわけではない」と多数決強行を示唆している。安倍は戦争法制定の際も、共謀罪創設の時も「丁寧に説明していく」と言った。実際には、全く口をつぐんだままで説明責任を果たすどころか、その努力もしていない。安倍の言葉を信じる者はいないだろう。

 安倍が目指すのは9条改憲だ。今のところ、自衛隊の存在を憲法に書き込み、自衛隊違憲論に終止符を打つというのが自民党内での有力な案だ。自民党憲法改正草案の「国防軍創設」よりソフトなイメージだが狙いは同じだ。

 憲法第9条は、第1項で武力による威嚇と武力行使を否定し、交戦権を放棄した。その保証として第2項で戦力不保持を定めた。自衛隊は紛れもなく世界有数の軍事力だ。その存在を憲法に書き込むことは、第1項と第2項の死文化であり、憲法前文と第9条による平和主義を否定することとなる。

容易でない9条改憲

 改憲勢力が衆院議員の8割を超えた。国会議員一人ひとりの調査でも82%が改憲派だ(10/28朝日)。だが、改憲テーマについては一様ではない。

 「憲法に自衛隊明記」を主張するのは自民と維新だ。その議席数は合計295。衆院3分の2の310議席には届かない。公約で「憲法9条を含め憲法改正論議を進める」とした希望の賛同がなければ国民投票にかけることはできない。

 その希望は、民進党からの合流希望者に小池が戦争法・改憲容認の踏み絵を踏ませたことで有権者の反発を招き失速。当選した50人のうち48人が元民進、1人が元自民党で、擁立した新人候補は1人しかいない。民進党からの合流組からは、選挙結果を受けて小池代表辞任を求める者が出ている。ただちに9条改憲に踏み込める状況ではない。しかも小池は、改憲推進ではあるものの憲法に自衛隊を書き込む必要はないとの立場だ。憲法第9条に第3項を追加し、自衛隊の存在を書き込むという「安倍9条改憲案」については「自衛隊は合憲とされており、3つ目を加えるのは屋上屋にならないか」(10/6)と述べている。

 連立与党の公明党も改憲に「慎重姿勢」を示している。今回、5議席減、比例区で700万票を割るなど、今まで以上に自公連立への批判を意識せざるを得ない。自民党が連立政権継続の合意文書に「憲法改正を目指す」と明記するように主張しても難色を示し、「合意形成に努める」という表現にとどまった(10/24朝日)。

 参議院に至っては、改憲勢力はどのテーマでも3分の2に届いていない。


共闘鍛え改憲阻止

 しかし、油断はできない。緊急事態条項創設と教育無償化を支持する議員は、3分の2を超える。

 緊急事態条項は、9条改憲とともに戦争国家づくりに欠かせない。内閣に法律と同等の効力を持つ政令を制定する権限を与えるなど、国民主権と基本的人権を踏みにじり、議会制民主主義すら停止する。大規模災害を口実にするが、いったん創設されれば戦争法の各種事態で発動できる。戦争のための国民統制を狙ったものだ。

 教育無償化は、法律の制定で十分であり改憲の必要はまったくない。とはいえ「有権者受け」することも事実。改憲への市民の心理的ハードルを下げる「お試し改憲」に使われかねない。

 衆院選では希望の結党と民進党解体をきっかけとした混乱で与党議席数3分の2を許した。しかし本紙前号で伝えたように、全国各地で改憲阻止を鮮明にした市民と野党の共闘は野党の混乱を乗り越え、いっそう鍛えられた。その力の発展・強化が、安倍退陣を実現し改憲を阻止する。

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