2017年11月10日 1501号

【未来への責任(236)歴史問題を解決する「国際社会の原則」】

 8月15日の光復節に当たって、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領は国民に対しメッセージを発した。この中で、文大統領は日韓関係にも言及した。「毎年、光復節が来る度に、私たちは韓日関係を振り返らざるをえません」と述べ、「光復70年が過ぎても、日帝強占期の強制動員の苦痛が続いてい」る現実を確認した。そして、「日本軍『慰安婦』と強制徴用などの韓日間の歴史問題の解決には、人類の普遍的価値と国民的合意に基づく被害者の名誉回復と補償、真相究明と再発防止の約束という国際社会の原則があります。わが国政府はこの原則を必ず守ります」との態度を明らかにした。翌々日の記者会見でもこの立場を再確認した。

 また、康京和(カンギョンファ)外相は9月11日の記者会見で、元徴用工・女子勤労挺身隊員らが新日鐵住金、三菱重工等に損害賠償を求めている訴訟に関し「法治を尊重する民主主義国家として、判決を尊重しなくてはならない」との見解を明らかにした。

 韓国政府は、日本軍「慰安婦」、原爆被爆者、サハリン残留者など「日本政府・軍・国家権力が関与した反人道的不法行為については、請求権協定により解決されたとみることはできず、日本政府の法的責任が残っている」(2005年、日韓会談文書公開後続措置民官共同委員会報告)との見解を表明している。他方、元徴用工問題については、態度をあいまいにしていた。

 光復節での文大統領演説は、この従来の立場から一歩踏み出したものだった。2012年5月24日の大法院判決と、それ以降の11件の下級審判決の積み重ね、強制動員被害者の粘り強い運動がつくりだした大きな変化と言える。

 これに対し、日本政府は「徴用工問題は請求権協定で解決済みである」と抗議した。相変わらずの解決済み論を繰り返している。政府だけではない。多くのメディアが政府に追随した。「韓国は徴用工問題を蒸し返すな」(8/19日経社説)「変節で日韓関係を壊すのか」(8/20読売社説)「国交の基盤まで崩すのか」(8/21産経社説)など。『朝日』『毎日』『東京』も批判の主張を展開した。

 本当にこんな論法が通用すると思っているのだろうか。50年以上前の人権状況の下で、植民地支配・戦争被害者を無視して交わされた条約である。それは見直されるべきものだ。

 今、国連には人権擁護のために「人権に関する特別報告者」「作業部会」が設置されている。特別報告者の中には、「真実・正義・賠償・再発防止保障の促進」報告者も置かれている。文大統領の言う「国際社会の原則」とはこのことを指している。日本はこれにも背を向けるのか。

 文大統領は8・15光復節演説で、「韓日関係も今や二国間の関係を越え、東北アジアの平和と繁栄のために共に協力する関係へと発展していかなければなりません。過去事と歴史問題が韓日関係の未来志向的な発展の足かせとなり続けるのは望ましくありません」とも述べていた。日本政府はこの発言を噛みしめるべきだ。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク事務局長 矢野秀喜)

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