2017年11月10日 1501号

【選挙CMは自民が圧勝/カネがあるものが圧倒的有利/これでいいのか「国民投票法」】

 衆院選の期間中、安倍首相のCMをやたらと目にした−−そうした印象を抱いた人は多いだろう。今回の選挙における広告宣伝は、野党側の準備不足もあり、自民党の一人勝ち状態であった。憲法「改正」の国民投票が行われれば、これを上回る事態になることは確実である。すなわち、資金力に勝る改憲派が圧倒的優位に立つということだ。

安倍自民のネット独占

 「安倍晋三のネット広告の多さはなぜですか?ありあまる富ですか?」。ヤフー!知恵袋にこのような質問が掲載されるほど、今回の衆院選では自民党のバナー広告が目立っていた。

 バナー広告とはインターネット広告の一種。サイト上で画像を用いて広告を表示する。サイトを閲覧した人が広告をクリックすると、広告主のサイトへと誘導する仕組みだ。2013年に公職選挙法が改正され、政党(支部も含む)が行う「政治活動」に限って利用が認められた。

 今回、自民党は選挙戦のラスト一週間にバナー広告を大量投入した。たとえば、新聞社のニュースサイトを開くと、安倍首相の顔写真をでかでかと掲載した自民党の広告が表示されるという仕掛けだ(動画版もあり)。一時は、各種ポータルサイトを安倍首相が独占といった状態で、「これが独裁国家というものか」と妙に感心してしまった。

 選挙用バナー広告に支出額の制限はない。政党側は資金が許す限り、いくらでも出すことができる。一方、無所属の候補には一切認められていない。多くの識者が「きわめて不平等なルールだ。資金力のある政党が有利になり、金権選挙に拍車をかける」と批判するゆえんである。

 ヤフー!JAPANのトップページにバナー広告を掲載するとなると、一番目立つ位置で最低1250万円の費用がかかる(一週間掲載)。朝日新聞デジタルの場合、最高額「ビルボードプラン」の料金は1000万円だ。ネットCMもやはり、カネの力がモノを言うというわけだ。

電通という強い味方

 テレビCMはもっとカネがかかる。「15秒のスポット広告」で放映料は300万円から500万円が相場である。カネがあってもコネがなければCM枠を押さえることができない。その点、自民党には日本最大の広告代理店である電通とタッグを組んでいるという強みがある。テレビ局に強い影響力を持つ電通は、優先的に購入できる広告枠を有しているからだ。

 自民党は解散総選挙のスケジュールを想定して広告発注を行い、電通を通してゴールデンタイムの優良枠を事前に確保することができる。一方、野党側は大急ぎで広告を準備したとしても、買えるのは視聴率が低い「売れ残り枠」だけといったことになってしまう。初動の差は致命的に大きいのである。

 正規の選挙CMだけではない。自民党は党公認のネットサポーターズクラブを謀略宣伝活動にフル活用している。ネトウヨを焚きつけ、野党の誹謗中傷を行わせているのである。今回の衆院選では、公示直前(10/6)に同クラブの緊急集会が行われ、安倍首相が応援に駆けつけた。「希望NO党」や「一見民主党」といった叩き言葉が提案されるなど、集会は大いに盛り上がったという(10/18毎日)。

 安倍応援団も脱法的な手法で加勢した。『ついにあなたの賃金上昇が始まる!』と題したアベノミクス礼賛本や、森友・加計問題を「朝日新聞の報道犯罪」と主張する書籍を選挙に合わせて出版し、新聞広告や電車の中吊り広告で大宣伝したのである。版元は中韓ヘイト本の出版社。本の宣伝の体裁をした安倍政権支援キャンペーンだ。

改憲派だけが目立つ

 このように、メディアを使った選挙戦は自民党の圧勝であった。連中は憲法「改正」の国民投票で同じことを期待している。現行の国民投票法はメディアにおける広告規制がほぼ存在しない。広告宣伝に莫大な予算を投入できる改憲勢力が絶対有利な仕組みになっているのである。

 具体的に言うと、賛成・反対どちらかへの投票を呼びかける「国民投票運動広告」は投票日の2週間前からテレビCM禁止となっている。ただし、「意見広告」に関する禁止条項はなく、投票日当日まで放送してよいから、事実上の野放し状態と言える。

 これは国際的にみて異常な緩さである。過去に20数回の国民投票が行われたフランスではテレビ・ラジオスポットCMは全面的に禁止されている。昨年6月に欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票が行われた英国でもテレビスポットCMは全面禁止だ。映像と音で情感に訴える力が強いテレビCMは国民投票の趣旨にそぐわないとされているのである。

 日本の国民投票法は国際基準を満たしていない。「カネさえあれば何でもできる」的なルールを改めない限り、目立つのは改憲派の広告ばかりという事態が確実に現出する。  (M)

【参考文献】本間龍著『メディアに操作される憲法改正国民投票』(岩波ブックレット)



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