2017年11月10日 1501号

【どくしょ室/福島第一原発 1号機冷却「失敗の本質/NHKスペシャル「メルトダウン」取材班 講談社現代新書 本体840円+税/原子炉に届いた水はほぼゼロ】

 本書は、同じNHK取材班による『福島第一原発事故7つの謎』の続編にあたる。扱っているのは、(1)事故の際、起動した冷却装置イソコン(非常用腹水器)がなぜ停止したのか、(2)注水された海水は原子炉に届いていなかった、という2つの問題だ。ここでは、(1)の問題を取り上げる。

 イソコンは1号機で唯一、地震と津波の被害を免れた冷却装置だった。イソコンは原子炉の気圧が71・3気圧になったところで自動起動した。ところがマニュアルには、急冷すると原子炉の強度に影響が出るので、1時間に55度以内のペースで冷却するよう定められていた。そのため、運転員はレバーを操作して冷却と停止を繰り返した。津波で地下にある非常用ディーゼル発電機が停止し全交流電源喪失の事態となった時点では、イソコンは停止していた。運転員はそのことを認識していたが、情報は中央制御室の当直長にも免震棟にも伝えられなかった。

 この後運転員は、一度イソコンを動かす。だが、実際の運用ではそうならないにもかかわらず空焚きになるのでは、との誤った判断で7分後には停止してしまった。この操作は免震棟に連絡されなかった。一連の流れから、現場の運転員や幹部たちがイソコンの性能や操作に精通していなかったことがわかる。

 調べていくと、1981年にイソコンよりも先にSR弁(原子炉の蒸気を格納容器に逃がすためのバルブ)が動くように設定が変えられ、以降イソコンの実働操作訓練も行なわれていなかったことが明らかになる。

 なぜ、そのような設定変更がされたのか。取材班は資料を調べ、当時の関係者にインタビューを試みるが、結局わからない。東京電力の一貫した利益優先体質から考えると、高温状態の原子炉が急激に冷やされることで劣化が早まるのを恐れたからに違いない。

 1999年の東海村・核燃料加工施設での臨界事故を受けて、米国の技術仕様書を手本に保安規定が改定された。米国では、5年ごとに実際にイソコンを起動させる試験を行うよう義務づけられている。この時がイソコンの実働操作訓練を導入するチャンスだったが、導入はされなかった。

 さらに、2009年2月、1号機で原子炉の気圧が上昇する事態が発生した際に原子炉が緊急停止せず、手動で停止させるというトラブルが起きた。これをきっかけに、翌年緊急停止する気圧を引き下げると同時に、イソコンがSR弁よりも先に作動するように設定を変えた。しかし、その際にもイソコンの実働操作訓練は行なわれなかった。運転員が、イソコンは水を補給せずに10時間運転できることを知っていたなら、空焚きを恐れて停止することはなかっただろう。

 福島原発事故が人災であることを再確認できる一冊である。     (U)
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