2017年11月24日 1503号

【トランプ来日バカ騒ぎ/歓迎一色報道が隠したもの/「北朝鮮危機」で儲ける戦争屋】

 「いま思い出せるのは、イヴァンカ、ゴルフ、ピコ太郎ぐらい」−−ドナルド・トランプ米大統領の来日について、このような印象を抱いている人は多いのではないか。それはそうだろう。新聞やテレビは歓迎ムードの盛り上げにひたすら徹していたのだから。御用メディアが粉飾した「おぞましき政治ショー」。その実像をみていこう。

沖縄のヘリ事故は無視

 大統領専用機で横田基地に到着したトランプ大統領。最初に行ったのは約2千人の在日米軍兵士を前にした演説だった。トランプが「空も海も陸地も、そして宇宙も我々が支配している」と叫ぶと、米兵たちはUSAコールの大合唱。この場には航空自衛隊員約300人もいたが、さすがにUSAコールは唱和しなかったようだ。

 この一件は米軍によって日本の主権がいまだに制限されている現状を浮かび上がらせた。トランプがそうしたように、米軍とその関係者は、日本政府から一切のチェックを受けることなく在日米軍基地に降り立つことができる。基地からフェンスの外へ出て日本に「入国」するときも、日本側のチェックはない。日米地位協定により「出入国自由の特権」が認められているからだ(第9条2項)。

 もっとも、フォードからオバマまでの歴代米大統領が公式訪問の際に米軍基地を使うことはなかった。これみよがしの行為で世論を刺激することは避けてきた。だが、トランプにそのような「配慮」はない。安倍政権も同様だ。軍事優先の日米地位協定の何が悪いと開き直っている。

 この姿勢が沖縄の基地問題にもあらわれている。沖縄で米軍ヘリが大破・炎上する事故が1か月前に起きたばかりだというのに、安倍は何も言わなかった。日米両政府が確認したのは「辺野古が唯一の解決策」、すなわち名護新基地建設の強行である。訪日中のトランプにアピールするように、防衛省は新たな護岸工事に着手した(11/6)。

 ちなみに、両政府は首脳会談に関する文書をそれぞれ発表したが、表現や内容に違いがある。日本側の文書では安倍晋三首相が米軍の事件・事故に対する地元の懸念を伝えたことになっているが、米側の文書にそのような記述はない。何とも姑息なアリバイ作りというほかない。

緊張煽り武器を売る

 11月5日、複数の外交筋が明らかにしたとして、「北朝鮮の弾道ミサイル発射」に関し、トランプが日本政府の対応に「なぜ撃ち落とさないのか」「武士の国なのに理解できない」と不満を漏らしていたと報道された。

 弾道ミサイルの推定高度は500q以上。日本の領空のはるか上だし、技術的にも迎撃は無理である。軍事オンチ丸出しの発言だが、それにはちゃんと理由があった。首脳会談後の共同会見でトランプはこう言った。「安倍首相は大量の米国製軍事装備を購入するようになるだろう。そうすればミサイルを上空で撃ち落とせる。日本が買えば米国で多くの雇用が生まれ、日本はより安全になる」

 トランプの「日本に不満」発言は、武器購入に圧力をかけるために、来日のタイミングに合わせてリークされたものだったのだ。実際、安倍は「必要ならばミサイルを迎撃する」と明言。米国製兵器の追加購入を約束した。米紙ニューヨーク・タイムズは「緊張を高めて武器を売りつける商法」を批判する論説記事(11/7)を掲載したが、日本のメディアはこの問題を正面から取り上げなかった。

拉致問題を政治利用

 安倍官邸が今回の目玉イベントとして用意したのが、拉致被害者家族とトランプの面会である。安倍は衆院選の演説でも、自分の働きかけで面会が決まったとのエピソードを自慢げに披露していた。

 しかし、安倍政権が実際に行っているのは拉致問題の解決を遠ざけることになる「対話より圧力」路線だ。このことを被害者家族は危惧している。たとえば、横田めぐみさんの母・早紀江さんは「制裁も必要だが、対話も必要だ」「戦争だけはやめてほしい。人を殺りくして街も壊滅するのでは意味がない」と訴えていた(11/4時事)。

 早紀江さんはクリスチャンの支援者が集う「祈りの会」でも「トランプさんに会ったら、“戦争はしないでください”と言おうかな」と話していたそうだ。だが、会に同席していた「拉致被害者を救う会」の関係者に、「政治的発言はしないほうがいい。大統領に会えるのも安倍さんのおかげなんですから」と制止されたという(『女性自身』11月14日号)。

 めぐみさんの弟・拓也さんは「圧力優先を支持します」とメディアに語ったことを、後に「ものすごく辛いコメントだった」と打ち明けている(10/13産経)。公の場では「家族を危険にさらす戦争挑発はしないで」という本心を明かすことができない−−何と残酷な話であろう。

 安倍の戦争路線に都合の悪い言説は封じ込まれ、なかったことにされる。トランプ来日はこの国の言論が「開戦前夜」の状況にあることを浮かび上がらせた。   (M)



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