2017年12月01日 1504号

【立憲主義に反する安倍改憲 自民改憲4項目 発議は一切許さない】

危機あおる所信表明

 安倍首相は11月17日、特別国会の所信表明演説で「今、我が国を取り巻く安全保障環境は、戦後、最も厳しいといっても過言ではない」と朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核・ミサイル開発への危機感をあおった。だが、安倍が言う「戦後、最も厳しい」は脅威扇動のためのものだ。

 戦後アジアでは、朝鮮戦争、ベトナム戦争という大規模な戦争が引き起こされた。冷戦時代米ソ両国は、地球を何度も破壊できる量の核弾頭を保有し、日本上空通過どころか世界中に核ミサイル攻撃ができる能力を備え対立してきた。

 安倍の狙いは、演説のまとめで訴えた「互いに知恵を出し合いながら、共に、困難な課題に答えを出していいく。そうした努力の中で、憲法改正の議論も前に進むことができる」とのくだりにある。

 朝鮮の核・ミサイル危機を最大限に誇張し、「国難」と演出。9条改憲に応じない野党と有権者の溝をつくり出し、野党を改憲論議に引きずり出すことを意図したものだ。

手始めの「合区解消」

 所信表明前日の11月16日、自民党憲法改正推進本部は、衆院選後初めての全体会合を開いた。会合では参院選での合区解消を目指した改憲案の条文化をすすめ、来年の通常国会で発議を目指す。

 参議院では、2016年から鳥取県と島根県、徳島県と高知県の選挙区をそれぞれ1選挙区とする合区で選挙が行われている。これは「一票の格差」が放置できなくなっているからだ。

 選挙で1人の議員が当選するために必要な得票数は、選挙区によって異なる。有権者が多い都市部よりも、有権者が少ない地方の方がより少ない得票数で当選できる。これが「一票の格差」として、憲法14条「法の下の平等」に反するとの趣旨で、選挙のたびに各地で選挙無効を求める裁判が争われてきた。2016年の参院選では、最大3・08倍の格差があり、16件の裁判が提訴され最高裁大法廷で結審している。10月衆院選では、格差が最大で1・98倍だったが、全国14の裁判所で選挙無効を求めて一斉提訴された。

 過去の判決は、合憲とするものと違憲・無効または違憲状態として是正を求めるものに分かれている。政府・国会も放置できず、衆院の定数調整や参院の合区となった。

利益誘導政治を守るため

 自民党憲法改正推進本部会合で改憲案条文化を決めた参院の合区解消は、参院議員を「都道府県代表」と位置づけ、憲法第47条に「参院議員は各都道府県から少なくとも一人が選出される」という趣旨の条文を新設するというもの。だが、憲法14条や国会議員を「全国民の代表」と定めた憲法第43条と矛盾する。これには、改憲推進の日本維新の会松井代表ですら「自民党の党利党略」と指摘する。

 もともと、合区解消は自民党参院議員が党内で強く求めてきた。「中央との太いパイプ」などの利益誘導政治で集票できなくなることを恐れて言い出したことだ。全国知事会も同調し「都道府県ごとに集約された意思が参議院を通じて国政に届けられなくなる」と合区解消を決議していた。

 政府と都道府県・市町村などの地方公共団体は法律上は対等とされる。知事会が言う「地方の声」を国政に反映させるために必要なのは、国と地方の対等を現実にするための行政間のあり方をつくり出すことだ。立法府である議会議員選挙の問題ではない。

安倍改憲は立憲主義破壊

 自民党憲法改正推進本部が提示する当面の改憲「カタログ」は、9条自衛隊明記、緊急事態条項創設、教育無償化創設、合区解消の4点だ。

 もちろん安倍改憲の本丸は9条改憲にある。だが、9条については、市民の反対のみならず、自民党石破元幹事長のように自衛隊の憲法明記でなく国防軍「昇格」にこだわる党内勢力を抱える。緊急事態条項も国民主権・基本的人権の侵害を破壊するものとして批判される。教育無償化、合区解消はそもそも法律事項であり、憲法を変えずとも教育関係法や公職選挙法で対応できるが、教育無償化は財源問題で党がまとまらない。消去法で出てきたのが、合区解消の先行条文化だろう。

 だが、維新が言う「党利党略」、全国知事会の言う「地方の声が届かない」といった利益誘導政治がらみの問題にすり替えさせてはならない。

 安倍は、「憲法学者が違憲とするから憲法に自衛隊を明記する」と言う。合区解消も、裁判所が「違憲状態」とするのなら憲法を変えればよいとする。共通するのは、「違憲といわれるのなら憲法の方を変えてしまえ」という乱暴かつでたらめな発想だ。これは「憲法は国民が権力を縛る」立憲主義そのものの否定だ。

 自民党憲法改正推進本部がもくろむ改憲4項目は国会に発議させてはならない。

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