2017年12月01日 1504号

【トランプ東アジア歴訪に見る権益争い 日米「インド太平洋」構想と中国 軍拡許さぬ民衆の国際連帯を】

トランプ歴訪の目的

 トランプ米大統領は11月5日〜14日の東アジア歴訪を自画自賛した。だがそれは、強がりにすぎない。

 トランプの目的は、2つの課題で成果を持ち帰ることだった。朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核ミサイル問題と貿易赤字問題。ともに中国が主要な交渉相手となる。

 米本土を射程にいれた朝鮮の核ミサイル。米政権としては看過できない問題だが、朝鮮の最大の貿易相手国で影響力を持つ中国抜きにことは進まない。ティラーソン国務長官が9月、中国と事前に協議を行った。「金正恩(キムジョンウン)政権の延命」を保証し、核ミサイル開発凍結させる取引案を示した。

 トランプ・習近平国家主席会談を踏まえ、特使が11月17日、朝鮮を訪問。「両党・両国関係の発展」を確認した。だが、核凍結への確証は見えていない。トランプはテロ支援国家再指定の脅しをかけながら「何が起こるか見守る」とツィートした。強硬路線では成果が得られない。トランプは中国頼みだ。

 米国の貿易赤字。相手国1位は中国だ。16年には3470億ドル(約38兆円)に上った。2位日本(689億ドル)の5倍以上だ。トランプの是正要請に習は約2500億ドルの商談で応じた。だが、この商談は実態をともなっていない。ボーイング社航空機300機(370億ドル)は2年前に習訪米時に調印されている。シェールガス事業投資などは覚書段階。契約にいたるかどうかは不明だ。「米国に雇用を生んだ」と自慢げに語ったトランプだが、ウォールストリートジャーナルなど米誌がこの商談の虚構を報じている。自画自賛する他なかった。


対中国包囲網

 トランプの歴訪は米政府の影響力の低下、東アジアにおける熾烈な権益争いを浮かび上がらせた。オバマ前政権のアジア戦略「リバランス(再均衡)」やTPP(環太平洋経済連携協定)を否定したトランプ政権に、それに替わるものがない。アジア地域を担当する国務省の次官補はいまだに空席のままだ。東アジア歴訪で口にした「自由で開かれたインド太平洋構想」。これは安倍政権からの借用だ。

 安倍は5年前の2次政権発足直後、「Asia's Democratic Security Diamond(アジアの民主的安保ダイヤモンド)」という英語論文を出した。米(ハワイ)と日本・オーストラリア・インドの4か国を結ぶダイヤモンドで中国を封じ込める軍事戦略を示したものだった。その後、中国が「一帯一路」(シルクロード経済圏構想)を打ち出す。経済だけでなく政治的軍事的影響力をインド洋からアフリカ地域にまで強めていく。南シナ海での基地建設から、インド洋沿岸国での港湾整備、中東やアフリカへの経済援助。これに呼応して覇権を狙う中国海軍大軍拡が進んだ。

 こうした動きに対抗しようと安倍政権は、16年8月ケニアで開かれたアフリカ開発会議(TICAD)で、アフリカまでを含む「インド太平洋構想」を打ち出した。「ダイヤモンド構想」の拡大だ。

 トランプの力点はそこにはなかった。アジア太平洋経済協力会議(APEC)での演説で、「インド太平洋地域のすべての国と新たな協力関係を提案する」としながら、貿易不均衡への不満しか述べなかった。ベトナム、マレーシア、タイ、シンガポールの指導者を招いて米国製品・サービスの購入を約束させた。

 対する習演説は「開放型アジア太平洋経済」。「自由貿易区のネットワーク構築、15年で24兆ドル相当の商品輸入、2兆ドルの対外投資」を表明した。中国の対外援助総額は、2000年以降の15年間で140か国3544億ドル。米国の3946億ドルに肩を並べる段階に至っている。


朝鮮脅威は軍拡のネタ

 ほんの1年前、東南アジアで大々的に叫ばれた「軍事的脅威」は朝鮮ではなく、中国だった。南シナ海での人工島建設や領有権の主張は国際法違反とのフィリピン政府の訴えに常設仲裁裁判所は中国に法的根拠がないとの判断を示した。だが、今回の東南アジア諸国連合(ASEAN)の声明には中国への「懸念」は封印された。中国の経済援助が効果をあげ、同時に東南アジアでは軍事緊張一辺倒が通用しないことを物語る。

 トランプ―安倍の「自由で開かれたインド太平洋構想」は中国に対抗する経済的軍事的戦略であることに変わりない。安倍政権は「中国を含めいずれの国とも協力していける」(西村康稔官房副長官)と表立った対立を避けているが、その下で、アジア市場の分捕り合戦が進行しているのだ。

 経済侵略と軍事活動は一体だ。安倍の戦争推進路線の下で、インド洋の西では海上自衛隊が「海賊対処」の活動を続け、アフリカ・ジブチの基地(12f)をさらに3f拡大する。沖縄辺野古新基地、南西諸島にミサイル基地の建設を進めようとしている。

 対中国、対朝鮮と「脅威」の対象はその都度取り換えられるが、安倍政権は軍拡路線を突き進んでいる。迎撃ミサイルTHAAD(サード)(高高度ミサイルシステム)に替えて導入する「イージス・アショア」は、射程距離が10倍も長くなる。朝鮮にだけでなく、中国大陸にも届くものだ。

 トランプの言う「米国製の兵器を買え」は「貿易赤字解消」ばかりでなく、対中軍事包囲網強化の道でもある。

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 東アジアをめぐるグローバル資本の権益争いは、民衆を抑圧する。軍事的緊張の高まりは、各国内の民主的な運動を制限する。東南アジア諸国の低賃金構造、非民主的政治体制がグローバル資本に法外な利潤を提供している。戦争を煽るな。貧困を広げる新自由主義政策をやめよ。東アジア民衆による国際連帯の力で軍拡路線の手足を縛り、平和と民主主義をつくりだそう。
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