2017年12月01日 1504号

【第3回 尊厳ある暮らしを守るつどい/「自立支援」の名で切り捨てないで/12・18厚生労働省要請へ】

 来年度予算で介護報酬など社会保障予算の削減がもくろまれている。「自立支援」の名による介護サービスの切り捨てを許すまいと11月18日、東京・足立区内で3回目となる「尊厳ある暮らしを守るつどい」が開かれた。

 「ふだんいろんな方のケアをしているが、その意義をちゃんと評価しないと自立支援の動きに流されてしまう。ざっくばらんな意見交流を」とNPO法人くまハウスの大久保信之さんが開会あいさつ。続いて、都内の病院で医療ソーシャルワーカーをしている藤平輝明さんが介護・医療をめぐる情勢を報告した。

利用者本位が対抗軸

 2018年度は6年に1度診療報酬と介護報酬が同時改定される年。財務省は診療報酬の2%台半ば以上のマイナス改定、介護報酬もマイナス改定を求めている。介護サービス全体の利益率は中小企業の平均より高く「おおむね良好な経営状況」と実態無視の見方を示し、訪問介護で1日の報酬に上限を設けたり自立支援につながらない“質の低い”通所介護で報酬を減らしたりする案を検討中だ。

 社会保障審議会介護保険部会では、厚生労働省が自立支援と重度化予防の促進を目的に自治体への財政インセンティブ(目標達成のための刺激策)評価指標案を提示。「介護からの卒業」「要介護度の軽度化」を合言葉に「結果を出せ」とばかりに日常の介護の現場からかけ離れた考え方が推し進められつつある。

 一方、介護労働者の低賃金は全く改善されていない。日本介護クラフトユニオンの調査では、月給制職員の80%近くが「働く上で不満」を感じ、その理由は「賃金が安い」「仕事量が多い」「何年たっても賃金が上がらない」が上位3つを占めている。

 藤平さんは「尊厳を保障する当たり前の介護実践、利用者本位の介護実践の質こそ、財政インセンティブの考え方に対する対抗軸。事例検討会で小規模多機能施設などの実践者の交流を進めよう」と報告を締めくくった。

改善求めるほうがおかしい

 意見交流の口火を切ったのは、足立区内の施設に週2回デイサービスに通う全盲の男性Kさん(72歳)。生まれつき弱視だったが、50歳まで30年間、同区内にあった東伸製鋼の工場で働いていた。「デイサービスがありガイドヘルパーさんがいて人一倍助かっている。カラオケが好きで、慰問に行って歌ったり、楽しく過ごせる。介護してくれる人は相手のクセを見てあちこち目を配り、面倒見がよくてやさしい。この仕事は絶対なくしてほしくない」

 自立支援が強調されることについてKさんは「私に今から目が見えるようになれったって無理。人間そんな極端なことできない。生きがいを持ち、けがなく、家族円満に。そういう生活をずっと続けたい。国が福祉を減らすとか潰すとかとんでもない。困ってる人は早く死ねという政府では困る」と話した。

 大久保さんは自らが運営する小規模多機能ホームの利用者の事例を紹介した。徘徊や虐待もある要介護3の82歳の男性。日曜日も含めて毎日デイサービスを提供する。当初は「俺は馬鹿だ」「だいぶボケてきた」と口にし、何度も外に出て行ったが、あるとき趣味の三味線を持って来所し、民謡を弾いて場を盛り上げる。以降、外出行動はなくなり、会話に入るように。「デイサービスの中で自分の居場所が見つかったことが大きいのではないか」と大久保さんは考えている。

 自立支援を名目にした介護サービスの切り捨てに懸念の声が相次ぐ。足立区内で宅老所を営む女性らは「介護度を下げることは考えていない。80歳、90歳の人に改善を求めるほうがおかしい。気持ちよく年をとらせてあげたい。もともと介護保険は在宅で長く生活をという制度だったのではないのか」「介護度はそのまま、重くもならないが身体機能が向上するわけでもないという人が多い。うちのような“質の悪い”地域密着型は淘汰されてしまうのかと不安」。長くケアマネジメントの仕事をしてきた女性は「厚労省の評価指標は現場を知らない行政が作った机上の空論。どこも引き受けない人を受け入れている施設に“自立支援”など持ち込めない。全介助の人だって人生を楽しむ権利はある」と批判した。

厚労省に私たちの声を

 足立区議の土屋のりこさんは決算特別委員会で区の見解をただしたという。「足立区は自立支援の強制はしないとの答弁だったが、現場でなし崩しにされてしまわないよう議会の中でも大きな声で言っていく。3月の一般質問でも介護の問題を取り上げたい」

 最後に、12月18日の厚労省要請(13時〜)が提案された。大久保さんは「厚労省の職員が『見学に行っていいですか』と聞いてくるなど、現場の実態や私たちの声を無視できなくなっている。ぜひ参加を」と呼びかけている。

 
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