2017年12月01日 1504号

【ドクター林のなんでも診察室 被曝影響の科学性奪う学術会議報告】

 日本学術会議がとんでもない報告書を出していることをご存じでしょうか? これは、日本学術会議臨床医学委員会(副委員長、山下俊一氏)の「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」というものです。この報告書(以下「報告」)は、福島原発事故での被曝はとても低いもので被曝による何の被害も出ていない、とするものです。

 全体的に科学を否定する内容ですが、ここでは妊産婦に係わる部分のみ紹介します。

 「報告」には、「死産、早産、低出生児体重及び先天異常の発生率に影響が見られないことが証明された」「実証的結果を得て、科学的には決着がついたと認識されている」とまで書いています。

 「決着がついた」とする根拠になったのは、なんと福島県民健康調査の、妊娠して母子手帳をもらった妊婦に対する、郵送などによる回収方法のアンケート調査のみです。

 流産、死産、先天異常などは他人から触れられたくないことです。それらに関する質問に応じられない方々は多く、それだけに回答する人が少なくなるのは当然と言えます。事実、3回の調査で回答率は50%前後です。その後の「フォロー調査」に至っては回答率は3割台です。そのためか、福島県さえも、2017年度より「妊娠結果が流産、死産である場合の対象者の心理的負担を考慮したため」「流産・死産の質問を一部削除する」との変更を行いました。

 このアンケートでは7〜8千人が回答しており、流産は60人ほどです。かりに異常のあった30人程度が回答していなければ大幅に率が違ってきます。こんな方法の、こんな回答率ではとても「証明できた」といえるような信頼できる結果は出ません。

 それに対してドイツの生物統計学者シェアブ氏と医問研の私・森共著論文のデータは、周産期死亡という全員に届け出の義務があるものです。その分析で、周産期死亡が福島原発事故約10か月後から放射能汚染地域で増加しています。にもかかわらず「報告」はこれを全く無視しているのです。

 「報告」のもう一つの「根拠」は、先のアンケート調査の2011年度分をまとめたものです。この論文では先天異常率は増えていないと書きながら全国平均より18%も多いことになっています(本紙1468号本コラム参照)。最後の「根拠」も先天異常調査の「仮資料」が提示されているだけです。

 以上のように、科学的根拠も全く示さないで「科学的に決着がついた」などとしているのが、学術会議の「報告」なのです。

 福島原発事故は、放射線防護の法律を無視する暴挙を引き起こしました。さらに、今回の「報告」のように、日本の学者から科学性をも奪っているのです。

   (筆者は、小児科医)
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