2017年12月01日 1504号

【どくしょ室 戦争と農業 藤原辰史著 インターナショナル新書 720円+税 戦争に転用された農業技術】

 本書は、農業技術の進歩が食と農業の在り方に大きな変化をもたらすと同時に戦争と密接に関係していること、さらには、資本に支配される今日の食と農業の問題点を指摘している。

 著者は、20世紀の人口増加を支えた4つの農業技術として農業機械、化学肥料、農薬、品種改良をあげる。

 農業機械の代表例はトラクターである。牛馬よりもはるかに効率よく土地を耕せるトラクターの有用性が知られると、農機メーカーや自動車メーカーも競って開発した。しかし、トラクターの使用で、家畜の糞尿を肥料としていた従来の農法が困難となった。

 そこで登場するのが化学肥料だ。肥料を工業的に大量に作り出す技法として有名なのが、ドイツの化学者が発明した、空気中の窒素からアンモニアを生成する製法。日本でも戦前から国策としてこの製法による肥料生産が開始される。その代表的企業が水俣病を引き起こす熊本のチッソと新潟の昭和電工であった。 

 化学肥料の研究は戦後各国で進んだ。農作物に深刻な被害を及ぼす害虫を駆除し、作物の生育を妨げる雑草を除き、病原菌から作物を守る農薬は瞬く間に世界に広がった。しかし、生態系に与える影響は深刻だった。最近でも日本でミツバチの突然の全滅が発生しており、その原因が農薬であると言われている。

 以上の3つの技術を統括しているのが品種改良だと著者は指摘する。品種改良は遺伝子組み換え技術によりスピードアップし、化学肥料に対する反応を向上させる改良など、企業の利潤追求のプログラムが組み込まれる結果となった。代表的な企業であるモンサントは、自社の開発する除草剤に耐性のある遺伝子組み換え植物を普及させ、高価な除草剤を貧しい農民に売り続けている。

 こうした農業技術と戦争の関係は深い。第一次世界大戦では大量殺戮を可能とする兵器の研究が進んだ。

 民生技術の軍事技術への転用を意味する「スピンオン」の代表例が、トラクター用に開発されていたキャタピラを戦車に取り付けたことである。また火薬の原料となる硝酸はアンモニアから生成できる。そのため窒素肥料の製造過程でできるアンモニアが火薬生産に転用された。公害企業のチッソは戦前、火薬製造の軍需企業でもあった。

 農薬は、毒ガスの「平和利用」としてつくられた。だが、害虫駆除の目的で製造された青酸カリはユダヤ人虐殺の毒ガスに使われた。モンサントの開発した除草剤はベトナム戦争で枯葉剤として使用されている。

 著者は、戦争を支配する他民族排除の論理と今日の利潤効率優先の大資本が支配するフードシステムの共通点を指摘する。それに抗して、各地の食と農業の多様性や自然との共生の視点に立った社会の再構築を呼びかけている。  (N)
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