2017年12月08日 1505号

【朝鮮をテロ支援国家に再指定/東アジアを戦場にするな/解決の道は無条件対話だけ】

「指定」は核開発と無関係

 トランプ米大統領は、11月20日、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を「テロ支援国家」に指定すると発表した。2008年解除後、9年経っての再指定だ。理由は「国外での暗殺を含め、数々のテロ行為を支援した」。「テロ支援国家」とは「国際テロ行為を繰り返し支援する国」だ。核ミサイル開発は「テロ支援国」指定の理由とはならない。だが、「犯罪政権として孤立化させる弾みがつく」のが狙いと語っている。

 トランプは「今後2週間にわたり最高レベルの制裁を科す」という。翌21日、財務省は第1段階として、朝鮮と貿易を行っている中国実業家や中国企業、朝鮮の人材派遣会社を制裁対象に挙げた。今後、エスカレートするつもりだろうが、日米外交関係者には「北朝鮮への実態上の影響は一切ない」(毎日11/22)ことはわかっている。

 指定された朝鮮には輸出管理法、武器輸出管理法、海外援助法の3法を根拠に「兵器の輸出・販売禁止や金融制裁、経済援助の制限」が科せられる。だがすでに金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の米国内資産凍結を行っている。米朝貿易・金融取引はゼロ、渡航禁止措置もとられている。制裁対象とされた中国企業、個人に米国内法を適用することに中国政府から抗議の声も上がっている。なぜ、効果のない指定をするのか。しかも、指定理由とされるマレーシアでの金正男(キムジョンナム)殺害事件は今年の2月。朝鮮に拘束された米学生が意識不明状態で帰国後死亡したのは6月。なぜ今なのか。

非公式協議は続いていた

 トランプは「もっと早く指定されるべきだった」と言ったが、それはもっぱら米議会、とりわけ与党共和党むけの言い訳だ。昨年来、共和党の強硬派議員からは「テロ支援国家指定」の主張があった。今年1月下院外交委員会に再指定法案が出された。2月金正男殺害事件後、上院でも共和党議員が財務省へ働きかけをしている。

 議会は今回の再指定をもろ手をあげて歓迎した。上院軍事委員会コットン議員(共和党)は「大統領の決定を歓迎する」との声明を出し、下院外交委員会ロイス委員長(共和党)は「金正恩に対する外交と金融の圧力を最大限に引き上げる我々の努力の重要な一歩となる」と評価した。

 トランプは共和党の政策とは必ずしも一致せず、非難も意に介さぬ振る舞いをしてきた。朝鮮との関係も、表では激しい言葉の応酬をしながら、水面下で協議の可能性を探っていた。

 米朝の非公式協議はスウェーデンで断続的に続いている。昨年5月、3日間にわたり協議が行われた。今年5月にも「極秘協議」の報道が流れた。東京新聞は11月18日「近く米朝協議」と元ロシア外務省朝鮮部長への取材記事を載せた。米国務省ユン朝鮮担当特別代表が10月末に、核ミサイル実験「60日間凍結」を米朝対話再開の条件に挙げたとのメディア報道もある。

強硬姿勢で疑惑隠し

 トランプはアジア歴訪に出発する直前、ロシアゲート疑惑で窮地に立たされた。10月30日には、マナフォート元選対本部長ら3人が起訴されている。捜査が進めば、議会で大統領弾劾の動きが強まる。下院で過半数、上院で3分の2以上の賛成があれば、大統領の罷免が決まる。共和党の一部でも反トランプに回れば、危うくなる。大統領弾劾の動きがすぐに始まるわけではないものの、来年の中間選挙を疑惑のままで迎えるわけにはいかない。

 トランプにとって、「テロ支援国家指定」は、保身のための議会・共和党向けパフォーマンスでもあるのだ。

協議を妨害する「指定」

 これまで米政府は「テロ支援国家」を侵略行為の正当化に使ってきた。03年イラク侵略はその象徴的なものだ。イラクは90年のクウェート侵攻時に「テロ支援国家」に再指定された。9・11後「サダム・フセイン大統領はテロ組織アルカイダを支援している」と非難された。サダムとアルカイダとは敵対していることを十分知ったうえで、ありえない話をでっち上げた。

 テロ組織を支援してきたのはむしろ米政府だった。中東の民主化を妨害し、反政府武装組織を育て、親米政権への転換をはかってきた。アルカイダやIS(イスラム国)は、その結果うまれた。トランプは朝鮮を「核で世界を威嚇しているだけでなく、国際テロを繰り返し支援してきた」と非難したが、それはそのまま米政府のことでもある。

緊張激化を望む安倍政権

 今回の「テロ支援国家」指定は明らかに米朝協議の障害になる。ところが安倍晋三首相は、すぐさま支持を表明した。「圧力を強化するものとして歓迎し、支持する」。河野太郎外務大臣も「さまざまな効果があるだろう」と期待感さえ口にした。「すべての選択肢はテーブルの上にある」と日米政府は繰り返すが、選択肢は一つ。それはテーブルの上にはない「無条件直接対話」だ。

 安倍政権は米朝協議の成功より、緊張激化を望んでいる。東アジアを戦場にするなと声を上げ、平和的交渉、無条件協議による解決の道を戦争屋たちに迫っていく必要がある。

 
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