2017年12月08日 1505号

【住宅追い出し訴訟 山形地裁 第1回弁論 生活の拠点奪うな/避難者の事情に沿った支援を】

 原発事故で福島から山形に避難した被害者が訴えられた「避難者住宅追い出し訴訟」。第1回口頭弁論が11月21日、山形地裁で開かれた。

 山形県米沢市の雇用促進住宅に4月以降も住み続けている区域外避難8世帯は9月、国(厚生労働省)の外郭団体である独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」(本部―千葉市)から、即時退去と4月以降の家賃相当分(月3万4900〜3万7300円)支払いの訴えを起こされた。

 避難者の生活拠点を強制的に奪う人権侵害、いじめそのものだ。全国には国家公務員宿舎や公営住宅に住み続ける避難者も多い。また再来年3月には、避難指示が解除された地域の避難者への住宅無償提供が打ち切られる動きだ。山形での提訴は強制執行のスタートで、見せしめ訴訟ともいえる。

 山形県内は36年ぶりの11月降雪に見舞われ、地裁周辺の気温は2度。開廷の1時間前、当事者やひだんれん(原発事故被害者団体連絡会)など支援者が集まってきた。かじかむ手で「住む家を追い出すな」「避難者の追い出し訴訟は認めない」のプラカードを掲げる。ひだんれん共同代表の武藤類子さんは「訴えられるべきは国・東電。この裁判を通して避難者の窮状を訴えよう」。原発避難者住宅裁判を準備する会世話人代表の熊本美彌子さんは「東京都も福島県も裁判の成り行きに注目している。ともにがんばっていい解決を」とあいさつした。

 33の傍聴席を求めて約70人が並んだ。法廷は、加害者である国が向かって左の原告席に、被害者の避難者が右の被告席に座る異様な構図だ。午後1時半、報道カメラの頭撮り。原告席には誰ひとりいない。撮影終了と同時に弁護士2人が入廷した。「顔も出せないほど自信がないのか」。傍聴席から声が漏れた。

一律の打ち切りが問題

 弁論は10分で終了するという。裁判長は被告の陳述を想定せず次の裁判を入れていた。被告代理人の海渡雄一弁護士は5分しかない短い陳述時間に抗議し、次回の当事者陳述確保を要求。その上で「政府自身これまで区域外避難の合理性を認めてきた。被告は子ども・被災者支援法の対象者であり、選択権や支援の義務を定めた同法2条2項に明確に違反する。手続き上も、いつ使用貸借の期限に合意したのかなど請求の根拠は不明だらけ。国連では日本政府の避難者への対応が人権侵害と批判されている」と論点を挙げた。

 第2回口頭弁論は1月12日。支援者やメディアの反響を目の当たりにした裁判官は、ようやく事の重大性を感じたらしく、次回は「被告陳述を考慮する」と答えた。即時結審、年内判決の最悪の事態は免れた。当事者の女性は「とりあえず年越しはできてよかった」と胸をなでおろす。

 裁判と報告会には、8世帯中7世帯が米沢市からかけつけた。小さな子どもを抱える世帯ばかりで、顔と名前が表に出ることによるプレッシャーを避けるため、法廷には入らず廊下で待機。報告会には最後まで参加した。

 原告は、有償の継続入居や転居の勧めが被告に断られたこと、契約を結んで住み続ける者との公平・公正を欠くことを強調する。しかし、当事者の武田徹さん(76)が話すように「一律の住宅無償提供打ち切りが問題。家賃支払いも困難な世帯が今残っている。家賃補助や個々の事情に沿った支援こそ必要だ」。

 当事者の女性は「継続入居の方たちもやむなく家賃を払っている。でも、私たち(の生活状況)を理解もしてくれている」と分断の狙いに異議を唱えた。「福島県の家賃月3万円上限補助も2年間だけ(2年目は2万円)。生活再建のメドは立てられない」。行政は個々人の事情に基づく支援をしたわけではない。「4月以降は何も私に話しかけてこなかった」(武田さん)のが実態だ。

地域から多くの参加

 報告会には、6月に結成された「原発事故避難者を支援する会」など地域から多くの参加があった。さよなら原発米沢代表の橋寛山形大学名誉教授は「年間1ミリシーベルト以上は避難の権利がある。避難者には住宅支援を、残る人には健康診断・保養支援を。この裁判は、8世帯の私憤ではなく、福島県民全体が“放射能は怖い”と口に出して言う権利を要求する運動になる」と支援の決意を述べる。

 東京からも同じく住宅打ち切り問題で悩む避難者が参加。「こんなに多くの支援者がいて山形の当事者も心強いだろう」と話し、「強制立ち退き反対署名」を集めた。山形の女性は「遠くからも支援に来てくれ、たいへんうれしかった。ひとりじゃないと思った」。武田さんは「私の後ろには8世帯だけでなく全国の避難者がいる。私はもう高齢だからいいが、お母さん方が顔を出せないのは当然。いじめもある。この闘いを通して、お母さん方が顔を出してしゃべれるような環境、社会になっていけばうれしい」と意義を語った。



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