2017年12月08日 1505号

【米軍属・女性殺害事件/殺人部隊と住民は共存できない/真の被告は日米両政府】

 沖縄県うるま市で昨年4月に発生した元米海兵隊員による女性暴行殺害事件の裁判員裁判判決が12月1日、那覇地裁で言い渡される。締め切りの関係で判決内容には言及できないが、事件の本質が「沖縄に基地が集中するゆえの犯罪」であることは言うまでもない。真の被告は沖縄に基地を押しつけてきた日米両政府なのだ。

背景に占領者意識

 起訴状によると、被告人は昨年4月28日午後10時頃、うるま市内でウオーキングしていた女性(当時20歳)を背後から襲い、暴行しようとした。棒状の凶器で後頭部を殴りつけ、両手で首を絞め、ナイフで首付近を数回突き刺すなどして殺害したとされる。

 検察は「犯行は計画的で殺意は認められる」とし、無期懲役を求刑した。これに対し、被告人は強姦致死と死体遺棄は認めたものの、「殺すつもりはなかった」と述べ、殺人罪は否認している。

 沖縄ではこの事件に抗議し、米海兵隊の撤退を要求する6万5000人の県民大会が行われた。一方、安倍政権御用メディアやネトウヨは「一個人の犯罪を政治利用するな」と主張する。批判の矛先を米軍基地に向けるのは論理の飛躍だと言うのである。

 そうだろうか。在日米軍及び軍人・軍属らには日米地位協定によって日本の法律に拘束されない特権が与えられている。この特権が今回の事件と密接に関係している。たとえば、被告人が犯行に使ったナイフやスーツケースなどを米軍基地内に運んで捨てたことだ。日本の捜査権が及ばないことを利用した証拠隠滅工作としか思えない。

 重要なのは、特権意識=占領者意識が凶行を誘発した可能性が強いことだ。被告人は海兵隊に7年間所属し、除隊後は嘉手納基地内で民間企業社員として働いていた(地位は軍属)。彼は自身の軍隊経験から、米軍関係者が日本で犯罪を犯しても逮捕されにくいことを知っていた。

 実際、弁護士を通じて米軍準機関紙『星条旗』に寄せた「手記」の中でこう語っている。いわく、自分には高校時代から女性を連れ去りレイプしたいとの願望があり、犯行当日はその欲求が高まっていた。(事件が起きた場所に)あの時、居合わせた彼女が悪かったのだ。日本の法制度では強姦は親告罪で被害者による通報率も低い。逮捕されることについては全く心配していなかった…。

 米軍関係者の特権に加え、性犯罪の加害者に甘い「日本の法制度」。これがあいまって「米軍属である俺を警察は逮捕できない」との“確信”を抱かせたのだろう。

地位協定が与えた特権

 地位協定の条文に則して言うと、米軍関係者が事件や事故を起こしても、公務中であれば日本側に裁判権はない。公務外でも身柄が米側にある場合は、日本側が起訴するまで引き渡さなくてもよい(第17条の各項)。基地内に逃げられたら、日本の警察は手を出せないのである。

 1995年に沖縄で起きた米兵による少女暴行事件を機に、強姦と殺人の場合は起訴前の身柄引き渡しが可能になった。ただし、これは米軍が「好意的考慮」を払うというものにすぎず、運用「改善」後も沖縄では強姦未遂容疑者の引き渡し要求が米側に拒否される事案が起きている。

 琉球新報が入手した警察庁の資料によれば、1996年から2011年の間に強姦容疑で摘発された米兵35人中、8割強にあたる30人が逮捕されず、不拘束で事件処理されていた。「強姦で米兵が逮捕されることはまずない」は本当のことなのだ。

 そもそも、日本政府は「裁判権放棄」の密約を米側と交わしており、「著しく重要と考えられる事例」以外は米軍犯罪を立件しないことになっている。事実、ジャーナリストの布施祐仁(ゆうじん)が情報公開請求で得た検察庁の資料によると、米軍関係者による一般刑法犯の起訴率は17・5%(2001年からの8年間)。日本全体での起訴率48・6%の半分以下でしかない。

 理不尽極まる日米地位協定は米軍事故や犯罪が多発する元凶と言ってよい。だから、その抜本改定を沖縄の人びとは求め続けてきた。


安倍は何をしたか

 ところが日米両政府は今回も地位協定には手を付けず、軍属の範囲を「明確化」する補足協定の締結でお茶を濁した。明確化と言っても決定権は米軍に丸投げしたままだ。

 そのうえ、安倍政権は信じがたい行為に出た。犯罪防止を目的とした「地域安全パトロール隊」として沖縄に派遣したはずの防衛省職員を、辺野古や高江における基地建設工事の「妨害対応」、すなわち反対運動の鎮圧に投入したのである。沖縄の人びとが日本政府への不信感を高めたのは当然であろう。

   *  *  *

 「迷いなく急所を攻撃できる、殺しのテクニックを持った『良き隣人』に、いつまで私たちの島は占領されなくてはならないのだろうか」。裁判を傍聴した上間陽子・琉球大学教授の言葉である(11/17沖縄タイムス)。殺人部隊である軍隊と住民は共存できないのだ。     (M)

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