2017年12月15日 1506号

【吉村・安倍は恥を知れ/サンフランシスコ市「慰安婦像」問題/人権踏みにじる歴史歪曲策動】

 米サンフランシスコ市は日本軍「慰安婦」問題を象徴するモニュメントを市の公共物とした。この決定に大阪市の吉村洋文市長は猛反発。60年間続いてきた姉妹都市関係の解消を宣言した。吉村市長を支持する右派メディアは「慰安婦像は反日宣伝だ」と批判する。だが、連中の歴史歪曲策動こそ「日本人の名誉」を傷つけているのである。

テーマは性暴力根絶

 サンフランシスコ市の「慰安婦像」問題は産経新聞が熱心に報道してきた。ネットで「産経」発の情報ばかり見ていると偏見を刷り込まれてしまうので、まずは正確な事実を押さえておきたい。

 日本のメディアが「慰安婦像」と呼ぶモニュメントは、正式名称を「Women’s Column of Strength(女性の強さの隊列)」という。英国出身の彫刻家スティーブン・ホワイトさんの作である。中国系の民間団体「“慰安婦”正義連合」が中心となって設置。サンフランシスコ市が寄贈を受け入れた(11/22)ことにより、市の公共物となった。

 デザインはこうである。台座の上で輪になり手をつなぐ朝鮮半島、中国、フィリピンの若い女性。この3人を見守るように年配の女性像が配置されている。「慰安婦」被害者として初めてカミングアウトした韓国の故金学順(キムハクスン)さんをイメージしている。

 碑文には「この記念碑は(性奴隷にされた)女性たちの記憶と、世界中の性暴力と性的人身売買を根絶するための運動に捧げられる」とある。忌まわしい過去、そして勇気ある告発をした女性たちを記憶し、世界から性暴力を一掃することを訴える−−これが作品のテーマである。

 「“慰安婦”正義連合」のジュリー・タン共同議長は、「戦時中の、特に強姦や暴行などの性的暴力から、女性が自由になることを訴えているのです」「日本人を侮辱する意図はない」と話す。「日本や大阪に対するバッシング」(吉村大阪市長)、「日本を貶める像」(11/26「産経」主張)といった批判は、事実無根の言いがかりにすぎない。

「歴史戦」が裏目に

 吉村市長らは「大日本帝国軍によって性奴隷にされた数十万人の女性と少女たち」という碑文の表現を問題視するが、これのどこが「誤った歴史認識」(11/17「読売」社説)だというのか。

 「慰安婦」と呼ばれた女性たちは、「日本軍の管理下に置かれ、無権利状態のまま一定の期間拘束され、将兵に性的奉仕をさせられた」(吉見義明・中央大学名誉教授)。このような状態を国連人権委員会などの国際機関は「性的奴隷制」と定義したのである(1998年マクドゥーガル報告書など)。

 日本政府も93年の「河野官房長官談話」において「慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」と認めている。これが日本政府の公式見解である以上、「わが国政府の立場と相容れず極めて遺憾」(安倍晋三首相)といった批判はできないはずだ。

 ご存知のように、安倍首相は「河野談話」の否定を何度も試みてきた。だが、国内外の批判を受け果たせなかった。そこで本音を言えない首相に成り代わり、安倍応援団の歴史修正主義者たちが「慰安婦は性奴隷じゃない。カネが目当ての売春婦だ」といった妄言をまき散らしている。

 連中はサンフランシスコ市議会で行われた「記念像設置に関する公聴会」(2015年9月)にも乗り込み、証言者の被害女性を嘘つきよばわりするなどした。そのふるまいは参加者のひんしゅくを買い、公聴会委員の市議から「恥を知りなさい」と説教される始末であった。

 結局、市議会は記念像の設置の決議案を満場一致で採択した。安倍応援団のヘイト発言が歴史の悲劇を後世に伝えるモニュメントの必要性を証明したのである。産経新聞の言う「歴史戦」が裏目に出たというわけだ。

ありえない安倍の圧力

 実は、日本政府も陰湿な妨害工作を行っていた。サンフランシスコ市の日系団体に対し「設置に反対しなければ、日本政府や日本企業からの資金援助を打ち切る」と脅したのだ。これは日本政府の常套手段で、アトランタ市では総領事が日本企業の撤退をちらつかせ、「慰安婦」問題を象徴する少女像の設置を「不許可」に追い込んでいる(少女像は近郊のブルックヘイブン市に寄贈された)。

 サンフランシスコの件では、安倍首相自らが外交ルートを通じて、市長に寄贈受け入れを拒否するよう働きかけていた。とんでもない話である。ドイツの首相が他国の自治体首長に対し「アンネ・フランクの銅像を建てるな」と迫ったら、世界中から非難が殺到し、辞任に追い込まれることは確実だろう。

 実際、海外のメディアは日本のヒステリックな対応に冷ややかな視線を向けている。たとえば、「日本はなぜ植民地時代の『慰安婦』像での闘いに敗れるのか」と題したワシントンポスト紙の解説記事である(11/21)。記事は識者のコメントを紹介するかたちで「この問題をなかったことにしようとすればするほど、実際は日本の評判を落としている」と指摘した。
 これが世界における常識的な反応だ。日本国内では「吉村市長よく言った」「中国や韓国になめられてたまるか」式の言説が幅を利かせており、影響を受けてしまいがちだが、そのほうが異常であり危険なのである。     (M)



  
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