2017年12月15日 1506号

【どくしょ室/社会保障 知っトク まるわかり 安心生活をつくる38の方法/全国クレサラ・生活再建問題対策協議会・社会保障問題研究会編/耕文社 本体1500円+税/利用者目線の使えるガイドブック】

 本書は、社会保障制度の基本を徹底して分かりやすい形で紹介する。11の分野計38のQ&A形式で、必要かつ有効な対応策を示している。各章は「利用者・市民の目線」で解説することが貫かれ、必要部分だけをピックアップしても十分に活用できる。

 第1章は社会保障の意義と必要性・有効性を説く。「困ったできごとの中で、余裕がなくすぐに貧困に転落してしまう。そういう『ためのない』社会」と現状を規定。喫緊の課題として「貧困の連鎖」をあげ、「申請主義の壁の中で、社会保障を受けられず、貧困が生み出されている構造を、何とか変えていかなければならない」と立ち位置を明らかにする。憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を生きた制度とするため、確かな知識で行政窓口や勤務先と「闘う術(すべ)」を持つことが制度改善につながると説く。社会保障は、憲法13条と14条に基づいた「人間であれば誰もが等しく享受できるはずの『人権』であること」と指摘し、「侵害されるおそれがある時は積極的に声を上げるべき」と現在の社会保障切り捨てへの対抗策を呼びかける。

 第2章では、ここ20年で様変わりした年金制度に多くのページを割く。人生に否応なしに関わる公的年金制度。しかしその種類、給付要件、受給開始年齢、受給額をすぐ答えられる人は少ない。分かりにくいとされる繰り上げ・繰り下げ支給問題も図入りで解説。今年実施のまだなじみの薄い新制度、10年年金制度についても紹介する。

 第3章は労働分野。失業時の雇用保険受給に加え、高額な健康保険料、国民年金保険料への減免制度にもふれる。業務内外での負傷、未払い残業代問題の考え方と対応策も。第4章は医療分野。ほとんど知られていない無料低額診療事業も解説する。以降、介護保険、児童福祉制度と子育て支援、生活保護、スタートしたばかりの生活困窮者自立支援法、教育制度、住宅問題の解説を記載する。

 本書は最後に、税金の滞納と対応策も指摘する。これまでの社会保障制度の解説本では書かれていないことだ。編集が全国クレサラ・生活再建問題対策協議会ならではの貴重な提言で実用性も高いのが特徴だ。

 社会保障制度のほとんどは申請主義に基づく。困った状態にあっても、申請窓口で手続きをしないと放置されてしまう。自己の周囲を含めて貧困状態に気づいた場合、一人でも多くの人が本書を活用し有効な手続きを伝えることが必要と感じる。それが社会保障制度の後退を阻止する。

 社会保障関連法の改悪が続き、毎年、対象、支給要件、交付額が悪化し利用者・市民は憤慨している。対抗するにはまず相手を知ること。本書のタイトル通り、知って損はない、持っていて役立つ一冊だ。 (K)
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