2017年12月22日 1507号

【防衛省が巡航ミサイル導入決定/敵基地攻撃は新たな戦争の危機/民衆殺す侵略軍化へまた一歩】

 防衛相は2018年度当初予算に長距離巡航ミサイル取得関連予算を計上することを決めた。現在の航空自衛隊主力戦闘機F15と最新鋭ステルス戦闘機F35への搭載を予定する。巡航ミサイルの名称と射程距離は表のとおり。



 巡航ミサイルは、航空機のように翼をもつミサイルで、低空を水平飛行し標的を攻撃する。発射後は特に誘導は必要なく、GPSや地図情報を事前に持たせれば自律的に飛行する。イラク戦争時、米軍はまず艦上からの巡航ミサイル攻撃によってレーダー網、防空網を破壊した後、爆撃機でクラスター爆弾など大量破壊兵器をばらまき、莫大な数の市民を殺りくした。しばしばピンポイントの破壊映像が流されるが、実際は周辺にいた多くの民衆が犠牲となっている。

憲法を踏みにじる

 巡航ミサイルの保有は自衛隊が敵基地攻撃能力を獲得すること意味し、憲法はもとより従来の政府方針にも反する。

 自民党は3月30日、敵基地攻撃能力保有を求める提言を安倍首相に提出していた。口実は「弾道ミサイルへの対処」であり、その提言を取りまとめた座長が小野寺五典現防衛大臣だ。朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)ミサイル発射への対応として、8月29日の国会審議では自民党と改憲補完勢力である日本維新の会が敵基地攻撃能力保有を求めた。

 憲法第9条は、国際紛争の解決手段として武力による威嚇と武力行使を放棄し、戦力不保持、交戦権否定を定めた。9条の下で再軍備を始めた政府は「戦力ではなく自衛のための最低限の実力である」と居直り、自衛隊を「合憲」とした。そのため、自衛隊は他国の攻撃から国土・国民を守る「専守防衛」に徹し他国に攻め入らないという制限を課されてきた。装備面でも、戦略爆撃機、弾道ミサイルなど他国攻撃に特化した兵器類は政府自身持てないとしてきた。

 とはいえ、歴代自民党政権は「他に手段がなければ敵基地攻撃は自衛の範囲内である」との政府統一見解で抜け道を用意し、安倍も「他に手段がないと認められるものに限り、敵の誘導弾などの基地をたたくことも憲法が認める『自衛の範囲』に含まれ、可能」とする。

 敵基地攻撃能力保有は、憲法を捻じ曲げるために持ち出した「専守防衛」さえも政府自ら投げ捨てる暴挙だ。

ミサイル、離島防衛は口実

 政府が巡航ミサイル保有の理由としてあげるのは、「離島防衛」と「朝鮮の弾道ミサイルへの対処」だ。

 小野寺は「『敵基地攻撃』が目的ではない」としたが、長射程が必要な事例を記者から問われると「具体的な事例に関してのお答えは差し控えさせていただく」と明らかにしなかった(12/9朝日)。事例を示し、軍事行動の際に縛られることを避けたのだ。だが「離島防衛」であれば、射程1000kmは必要ない。これは防衛相幹部も認めている(12/6日経)。

 自民党の提言では「相手が撃ってくる元を制御して、2発目以降を撃たせないようにすることが大変重要だ」とした(12/8朝日)。朝鮮の弾道ミサイル開発を口実としたものだ。だが、「元を断つ」といっても、ミサイル発射装置は、敵の攻撃を避けるため山間部や地下トンネルを移動できるようにする。標的が特定できなければ不可能だ。

先制攻撃が狙い

 巡航ミサイル保有の理由とする「離島防衛」も「弾道ミサイル対処」も真っ赤な嘘だ。

 狙いは「基地攻撃能力」を備えることそのものにある。能力を持っておけば、集団的自衛権行使を可能とする戦争法の下で、将来いつでも行使することができると踏んでいる。航空機への搭載では、直接的な攻撃能力は機体の航続距離(F15は2800q、F35は2200q)が加わることになる。さらに、いったん保有が既成事実化されれば、空中給油を通じた航続距離延長、海上発射、潜水艦発射へと拡大され、世界中どこでもいつでも敵基地先制攻撃が可能となる。安倍の「地球儀俯瞰(ふかん)外交」に基づく地球儀俯瞰戦争≠ニもいうべき軍事戦略である。

 射程1000qの巡航ミサイルは、日本海上や南西諸島沖から発射しても朝鮮、中国、韓国、ロシア、台湾、フィリピンの国土に届く。搭載戦闘機の航続距離を加えれば3000qを超え、東アジアに新たな軍事的緊張激化を産む。

 朝鮮、中国の脅威をあおり、民衆を殺す先制攻撃を狙う安倍の危険な戦争政策を止めなければならない。

日本海の中央付近と南西諸島から巡航ミサイルの射程1000キロメートルの範囲を表した。
搭載戦闘機の航続距離を加えると、範囲はこの3倍となる。

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