2017年12月22日 1507号

【未来への責任(239)産業革命遺産と強制労働(上)】

 太平洋戦争中に数多くの朝鮮人や中国人、連合軍捕虜などが強制労働を強いられた施設である「軍艦島」(端島)や三井三池炭鉱、八幡製鉄所、長崎造船所などが「明治日本の産業革命遺産」として2015年7月、ユネスコの世界遺産リストに登録された。「西洋から非西洋への産業化の移転が成功したことを証言する」「顕著な普遍的価値」を持つ産業遺産とされている。これは「富国強兵」「殖産興業」のスローガンのもとで、朝鮮半島の植民地化、中国大陸での利権拡大をめざしてアジア侵略へ突き進んだ日本の産業基盤の確立としての「明治の近代化」を賛美するものであった。

 これに対し韓国政府は「国際平和と人類の共通の福祉という目的を促進する」ユネスコの設立精神に反するとして登録に反対。日本政府は「1910年までの急速な産業化をめぐるものであり、戦時期の朝鮮人・中国人などの強制連行・強制労働は無関係である」と登録の強行をめざした。最終的に承認されたのは、当時の佐藤地(くに)ユネスコ大使が述べた以下のステートメント(表明)である。

 「日本は、1940年代にいくつかのサイトにおいて、その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと、また、第二次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる所存である。日本は、インフォメーションセンターの設置など、犠牲者を記憶にとどめるために適切な措置を説明戦略に盛り込む所存である」と。そして登録承認時のユネスコ決議では、日本政府は「ステートメント」に留意して「各サイトの歴史全体についても理解できるインタープリテーション(展示)戦略」を作成して2017年12月1日までにユネスコに報告することが義務付けられた。ところが、登録直後の7月14日付の外務省のホームページにはこの「ステートメント」に次の5つの注が付されていた。

 【注1】「朝鮮半島に適用された国民徴用令に基づき徴用が行われ、その政策の性質上、対象者の意思に反し徴用されたこともあったという意味で用いている」【注2】「厳しい環境の下で」との表現は…「戦争という異常な状況下」、「耐え難い苦しみと悲しみを与えた」との当時の労働者側の状況を表現している。【注3】「『犠牲者』とは、出身地のいかんにかかわらず、炭坑や工場などの産業施設で労務に従事、貢献する中で、事故・災害等に遇われた方々や亡くなられた方々を念頭においている」【注4】「今回の日本代表団の発言は、従来の政府の立場を踏まえたものであり、新しい内容を含むものではない」【注5】「今回の日本側の発言は、違法な『強制労働』があったと認めるものではないことは繰り返し述べており、その旨は韓国側にも明確に伝達している」

 ユネスコ世界遺産委員会での発言の舌の根も乾かないうちに日本政府は臆面もなく「強制労働」はなかったと公式発表したのである。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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