2017年12月22日 1507号

【性暴力を肯定する安倍政権/今も昔も被害者を嘘つきよばわり/アベ友記者の性犯罪をもみ消し】

 安倍政権やその取り巻き連中のせいで「日本は性暴力を肯定する反人権国家」という認識が世界中に広まりつつある。根拠のない話ではない。連中は日本軍による戦時性奴隷制の被害者を嘘つきよばわりする言説を撒き散らしているし、首相の御用記者が犯したレイプ犯罪を国家ぐるみで「なかったこと」にしようとしているからだ。

「慰安婦叩き」の愚

 米国の雑誌「タイム」は12月6日、年末恒例の「今年の人」にセクハラ被害を告発した女優たちを選び、「The Silence Breakers(沈黙を破った人たち)」と名付けた。

 米国では今年、女優のアシュレイ・ジャッドさんがハリウッドの大物プロデューサーから受けたセクハラ被害を実名で告発。これを機にツイッター等で被害の声を上げる動きが広がった。タイム誌は「勇気を与える行動をした女性たちを表紙にした」としている。「性暴力に沈黙せず、声を上げよう」というムーブメントが米国社会で起きていることがわかる。

 このことを念頭に置いた上で、メディアが「慰安婦像」と呼ぶサンフランシスコ市のモニュメントをみてほしい。3人の少女を見守る女性像は、韓国人として初めて「慰安婦」被害をカミングアウトした故金学順(キムハクスン)さんを表している(前号8面参照)。「慰安婦」制度という究極の人権侵害を記憶すると同時に、「沈黙を破った人たち」の思いを継承し、世界から性暴力を根絶することを訴える−−これがモニュメントの趣旨である。その設置に対し、安倍晋三首相はあろうことか「わが国政府の立場とは相容れない」と圧力をかけたのである。



 日本政府はアトランタ市でも、「慰安婦」問題を象徴する少女像の設置を妨害している。篠塚隆アトランタ総領事は「歴史的事実として、慰安婦は強制されておらず性奴隷ではない」「アジアの国々では家族を養うためにこの仕事を選ぶ女の子がいる」と発言。地元紙に「総領事が『慰安婦』は売春婦だと述べた」と報道された。

 こうした国家ぐるみの「慰安婦バッシング」が「日本は性暴力を擁護する、女性差別の国」というイメージの拡散につながっている。右派メディアの言葉を借りれば、「日本の名誉を貶(おとし)めている」のは安倍一派のほうなのだ。

逮捕中止の背景

 「そんなことはない」と安倍政権は反論するだろうが、説得力は全くない。なぜなら、「身内」の性犯罪をもみ消そうとした疑惑が今まさに浮上しているからである。その問題をめぐる民事訴訟の第1回口頭弁論が12月5日、東京地裁で行われた。

 元TBS記者の山口敬之氏を訴えているのは、フリージャーナリストの伊藤詩織さん。訴状によると、伊藤さんは2015年4月、就職の相談で山口氏と都内で会食。飲酒中に突然意識を失い、その状態でホテルに連れ込まれ、性的暴行を受けたという。



 被害届を受けた所轄署は準強姦罪容疑での逮捕に動いていたが、警視庁上層部の圧力で執行寸前に中止。結局、事件は「嫌疑不十分」で不起訴となった(16年7月)。伊藤さんは検察審査会に不服申し立てをしたが、受け入れられなかった(17年9月)。

 逮捕中止を指揮した中村格(いたる)刑事部長(当時)は、菅義偉官房長官の元秘書官で、今も片腕的存在の警察官僚である。今年5月に伊藤さんが実名告発に踏み切った際には、首相側近の北村滋・内閣情報官が報道対策に動いた。伊藤さんのバッシング情報(民進党がバックにいる等々)をメディアに流したり、ネトウヨがたむろするネット掲示板に投下したと言われている。

 なぜ一介のフリー記者を官邸が全力で守るのか。それは山口氏が「安倍政権お抱えの広報マン」だからである。彼はTBSで番記者をしていた頃から安倍首相と密接な関係を築いてきた。フリーに転身後は「総理に最も近い記者」として、ワイドショー番組などに出まくっていた。

 山口氏が売れっ子になったきっかけは、週刊文春(15年4月2日号)に発表した「韓国軍にベトナム人慰安婦がいた!」と題するレポートである(その内容は資料の恣意的解釈に満ちており、取材対象者から「コメントをねつ造された」と批判されるほど、お粗末なものだ)。

 安倍政権はこの記事を「慰安婦」問題で韓国政府を黙らせる材料としてフル活用しようとした(官邸自身がネタ元との説もある)。それなのに、キャンペーンを始めてすぐに執筆者が性犯罪で逮捕寸前に陥ってしまった。だから公安警察出身の官僚を動かし、スキャンダルを闇に葬ろうとしたのである。

逃げ切りを許すな

 伊藤さんの勇気ある告発により、隠ぺい策動は破綻した。野党各党・会派の国会議員の呼び掛けで「超党派で『準強姦事件 逮捕状執行停止問題』を検証する会」が発足するなど、真相究明を求める動きが広がっている。参院予算委員会(11/30)における福島みずほ議員(社民党)の追及に対し、安倍首相は「個別の事案に答えることは差し控える」とだんまりを決め込んだ。

 卑劣な逃げ切りを許してはならない。安倍一派には「過去に目を閉ざす者は現在に対しても盲目になる」(ヴァイツゼッカー元ドイツ大統領)との言葉がぴったりあてはまる。国家が主導した戦時性暴力をねつ造だと主張する連中は、現在においても「正義と人権」の敵対者なのである。     (M)
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