2017年12月29日 1508号

【広島高裁が伊方差し止め仮処分 原発再稼働阻む画期的決定】

 広島市民や松山市民が伊方原発3号機(愛媛県)の運転差し止めを求めていた仮処分申請の抗告審で、広島高裁(野之上友之裁判長)は12月13日、住民の訴えを退けた1審広島地裁決定を変更し、四国電力に運転差し止めを命じた。仮処分決定は係争中でも直ちに効力が生じる。現在、伊方3号機は定期点検のため停止しているが、1月の検査終了後も再稼働できなくなった。

高裁初、火山理由も初

 福島第1原発事故後、原発訴訟で運転差し止めを認めたものとしては、大飯原発3、4号機差し止め判決(2014年5月、福井地裁)や高浜原発3、4号機運転差し止め仮処分決定(15年4月、福井地裁)がある。高浜3、4号機は16年3月にも大津地裁で同様に運転差し止めの仮処分決定が出ている。ただ、これらの判決・決定はいずれも地裁によるもので、その後、高裁では覆されている。今回、高裁段階での原発運転差し止めの決定は初で、日本の原発訴訟の歴史に新たな一歩を記すものだ。

 また、今回の決定は伊方原発から130`離れた阿蘇山(熊本県)が噴火した場合、火砕流が到達する可能性を理由に原発差し止めを命じている。過去、運転差し止めを命じた判決・決定はすべて地震の危険性を理由にしており、この点でも原発訴訟史上初となる。

日本に原発「適地」なし

 決定は、火山について原子力規制委員会が定めた安全性審査の内規である「火山影響評価ガイド」が原発から半径160`以内の火山を対象としていることに基づいて、阿蘇山の危険性を分析。阿蘇山で過去最大とされる9万年前(VE=火山爆発指数17)の噴火で、現在の伊方原発の場所まで火砕流が到達した可能性を指摘。阿蘇山の活動可能性も、VE17レベルの噴火が起きた場合に伊方原発敷地内に火砕流が到達するおそれも、「十分小さいとはいえない」と判断した。

 VE17レベルの噴火が阿蘇山で起きる可能性が1万年に1度程度であることを根拠に、1審広島地裁は「考慮する必要がない」としたが、今回の決定はこれを批判。1万年に1度の噴火でもひとたび起きれば破局的被害が出る。規制委の審査基準がこれを考慮することは当然であり、阿蘇山噴火の危険性がないことの立証責任を負っている四国電力がそれを果たさない以上、伊方原発の運転は認められないとした。

 今回の決定には、火山以外の規制委の審査基準を合理的だと追認していることや、運転差し止めの期間を来年9月末までに限定していることなど不十分な点も多くある。だが、「これでは日本のどこにも原発が造れなくなる」(電力会社関係者)という声が上がっていることは、決定が国や電力会社に与えた衝撃の大きさを物語っている。


電力腐敗行政の原点

 伊方原発をめぐる住民訴訟は早くから取り組まれており、第1次訴訟は1973年から始まった。1審松山地裁では住民側に理解を示していた裁判長が判決直前に差し替えられる「事件」があり住民側が敗訴。2審高松高裁でも敗訴した住民側は最高裁に上告する。1992年、最高裁も住民の訴えを却下。原発容認の判決が確定した。

 この判決に関わった5人の最高裁判事のうち、味村治(みむらおさむ)判事は退官後、原発メーカー・東芝に天下り。三好達(さとる)判事に至っては、1995年最高裁長官に就任。退官後は日本会議会長となり、今も名誉会長の地位にある。民主主義、人権を平然と踏みにじる原発推進派と改憲派がつながっていることを示している。

 国・電力会社が、どんな汚い手を使ってでも住民訴訟に勝つ―それが日本で最初に実行されたのが伊方だ。その伊方で勝ち、逆転への一歩を築いたことにも大きな意味がある。ここから原発を止めていく大きな流れを再び作り出さなければならない。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS