2017年12月29日 1508号

【エルサレム首都認定の背景/窮地に立たされた米トランプ大統領/中東戦略の暴力的出直しはかる】

 トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定すると宣言した。国連決議に反すると世界各国から非難を浴びているが、まったく気にも留めない。トランプは支持基盤である極右勢力に応えるだけでなく、中東戦略の再構築を狙っている。だがそれは中東和平を破壊する武力による覇権争いなのだ。トランプ宣言に異を唱えない安倍政権もまた覇権争いに加わるプレーヤーだ。

占領者の側に立つ

 米議会は1995年、エルサレム大使館移転法を可決。エルサレムをイスラエルの首都と認め、テルアビブの大使館を移転するよう政府に求めた。イスラエルがパレスチナを認めた見返りだった。歴代大統領は法の執行を半年延期する措置を繰り返し、議会も了解してきた。

 トランプも6月に延期措置をとった。ところが今回は執行するという。その理由を次のように述べた。「20年以上延期してもイスラエルとパレスチナの和平が保てない。同じやり方を繰り返し、よい結果が生まれると想定するのは愚かなことだ」

 和平が進まないのは、占領地からの撤退などを求めた数々の国連決議を踏みにじり、70年間軍事占領を続けるイスラエルに責任がある。

 パレスチナは、第1次大戦後オスマン帝国の支配地を委任統治した英国がこの地にアラブ、ユダヤ双方の建国を約束した結果、戦いが起こった。47年、国連はユダヤ国家とアラブ国家の分割案を決議した。反対する加盟国を米政府が脅した。6%の土地所有権しかなかったユダヤ人に約56%の領土が配分された。エルサレムは国連統治地区とされたが、翌年イスラエルはエルサレムの84%を占領した。

 その後、アラブ、イスラエルとも相手国家の存立を認めず、67年第3次中東戦争後、イスラエルはエルサレム全域を占領し、首都と宣言した。しかし国連安保理は80年、決議478「国連加盟国はエルサレムに大使館を設置してはならない」とし、当事者の協議にゆだねた。93年、双方が相手国家を認めることを軸とするオスロ合意が成立したが、首都問題は先送りされた。

 以上の経緯からも、米大統領が軍事占領者イスラエルの立場を表明することは、「和平」を放棄したと非難されて当然のことだ。


支持基盤は極右

 トランプがこの時期に暴挙に出たのは、就任1年を経ても見るべき成果は何もなく、窮地に立たされているからだ。

 大統領選介入疑惑「ロシアゲート」では、フリン前大統領補佐官が12月1日、虚偽供述の事実を認め、司法取引に応じた。選対本部長だったマナフォートは起訴。選挙だけでない。ロス商務長官の関係する海運会社、が経済制裁の対象となっているプーチン露大統領側近らの石油化学大手と取引。米国の国益に反すると指摘されている。

 12月12日、共和党の地盤であるアラバマ州で上院補欠選挙が行われた。セクハラ・スキャンダルがあったとはいえ、共和党候補が敗れている。トランプ自身のセクハラ疑惑も消えていない。来年は上院の3分の1と下院全議員の改選(中間選挙)の年だ。支持層を固める材料、それがキリスト教福音派、親ユダヤの望むエルサレム首都認定だった。

武力による覇権争い

 だが、国内問題だけでパレスチナを切り捨てたわけではない。トランプにとって、中東戦略の立て直しでもある。

 米政権の中東戦略はイラク戦争で大きく躓(つまず)いた。親米政権への転換を狙ったイラク侵略も、結果的には親イラン政権を生み、ロシアの影響下に追いやった。イランとの核合意を成立させたオバマ前政権に対し、トランプは合意破棄を叫び、緊張激化に誘導する。

 新たな火種を持ち込むトランプ政権のパートナー役が、イランと敵対するサウジアラビアだ。表面上、宗派対立を装っているが、原油生産量決定の主導権争いであり、米ロの代理戦争の関係でもある。

 サウジのムハンマド・サルマン皇太子は、同じスンニ派国家であるカタールに対し、親イランとの口実で国交断絶した。自らの権力基盤を固めるために11月4日、王族を含む約1300人を逮捕した。

 サルマンは2年前、対テロを名目にイスラム軍事連合の結成を主導。イラン、イラク、シリアに対抗している。またイエメン内戦に介入、米軍とともに空爆を行い多くの市民を殺害している。このサルマンとトランプの娘婿ユダヤ教徒のジャレッド・クシュナー上級顧問が「エルサレム首都宣言」を準備した。

 サルマンは粛清を終えた直後の11月6日、パレスチナ自治政府アッバース議長を呼びつけ、100億ドルの資金提供と引き換えに、エルサレムを含むヨルダン川西岸をイスラエルに引き渡すよう迫ったという(12/12 The American Conservative)。

 トランプは「この行動(エルサレム首都宣言)こそが米国の国益と、イスラエルとパレスチナの平和希求に最大の貢献ができると判断した」と述べた。つまりパレスチナ国家をガザに押し込めることが「恒久和平合意に向けた協議を進める」と言うのだ。

 イスラエルの軍事占領は問題ではないとし、国際法違反の入植=土地強奪を正当化したのだ。

安倍も平和の敵

 トランプ政権の露骨な介入に主要国政府は嫌悪感を示した。英メイ首相、仏マクロン大統領、独メルケル首相、EUモゲリーニ上級代表などこぞって「支持しない」、「和平を危険にさらす」と警告した。ところが、安倍政権は一言も異議申立てをしないどころか、河野太郎外相は「トランプ氏の中東和平促進への努力を評価する」と媚(こ)びる。サイバーセキュリティ共同開発など、日本政府はテロ国家イスラエルとの関係を強めている。中東をめぐる戦争屋たちの覇権争いで多くの市民が犠牲になっているにもかかわらず、なんのためらいもない。

 イスラエル軍は占領地から撤退せよ。首都問題は当事者の協議で。それが合意された和平への第一歩だ。

 アメリカ大使館に向けて「アルクッズ(エルサレムのアラビア語名)はパレスチナの首都だ」「ノー!トランプ」と抗議する在日ムスリム有志の人びと。参加者の一人は「日本政府もアメリカに忠告しなければならない。日本の平和のためにも必要だ」と話した。(12月15日 東京・港区)
 
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