2018年01月05・12日 1509号

【「若者は改憲志向」なのか/9条「評価」なのに安倍支持はなぜ/実態は不安による「すがりつき」】

 「日本が生まれ変わる年にしたい」と、「2020年の改正憲法施行」に意欲を燃やす安倍晋三首相。御用メディアは「国民の理解進む」と煽っているが、本当にそうなのか。安倍流改憲戦略の傾向とその対策を憲法をめぐる世論調査から読み解く。

「改憲必要」は減少

 「憲法改正」を選挙公約の一つに掲げた昨年10月の衆院選で、安倍自民党は284議席を獲得しました。これで国政選挙は5連勝。若い世代ほど安倍政権への評価が高い傾向を各種世論調査は示しています。「若者は改憲志向。それに対し護憲派は先細り」と嘆きたくもなります。

 でもね、改憲機運とやらは高まっているのでしょうか。NHKが3月に実施した大規模世論調査(個人面接方式。調査有効数2643人)を分析すると、意外な事実が浮かび上がってきました。

 まずは「憲法改正」の必要性について。「改正する必要があると思う」との回答は43%でしたが、前回2002年の調査より15ポイント下げています。一方、「必要はないと思う」は34%で、前回より11ポイントの増。調査結果を見る限り、改憲機運はむしろしぼんでいます。

 世代別にみていきましょう。「改正の必要なし」との回答が70歳以上で多いのは事実ですが、18〜29歳でも同じぐらい多い。この世代の男性の48%が「必要なし」と回答。6段階に分けた世代別で最も高い割合でした。

 「9条改正」ついてはどうでしょう。全体の数値は「改正必要」25%、「必要なし」57%。「必要なし」の割合を世代別でみると、これまた18〜29歳代が最も高く、男女とも全世代トップでした(それぞれ66%、62%)。

 こうした意識は憲法9条に対する高い評価によるものです。「9条が日本の平和と安全に役立っている」との回答は「非常に」と「ある程度」を合わせて82%をマークしました。現在のシニア世代が若者だった頃(1974年)に行われた調査より、16ポイントも増えています。

 戦争の脅威が現実のものになってきているからでしょうね。好戦的な安倍政権の下で、憲法9条は戦争抑止力としての役割をますます期待されているのです。




不況に戻る恐怖

 ではなぜ、憲法破壊を企てる安倍政権が高支持率を保ち、国政選挙に勝ち続けているのか。簡単に言うと、政権評価にあたり憲法問題は重視されていないからです。「国の政治に優先的に取り組んでほしいこと」を聞いた質問をみてみましょう。9つある選択肢から3つまでを選ぶ方式なのですが、「憲法改正」は最下位の6・1%でした。

 多かったのは「景気・雇用対策」と「社会保障・福祉対策」で、勤労世代では前者が特に多い。選挙戦における安倍自民党の強調点、すなわち景気拡大や雇用回復などの実績PRと一致しますね。安倍政権はアベノミクスと銘打った経済政策によって支持を得ているのです。

 「そんなバカな」と思われるかもしれません。「アベノミクスは失敗した。実質賃金は低迷したままだし、増えたのは非正規雇用だけではないか」と。しかし、デフレ不況の雇用難を経験した人びとは「どんな労働条件でも仕事がないよりはましだ」と考えるのではないでしょうか。

 いま新卒者の就職率は上がり、「売り手市場」と言われています。安倍首相はこれを「アベノミクスの成果」と宣伝します。そして「野党を勝たせたら政治が混乱し、また不況になる」と訴える。この脅しは効果絶大です。やっと職にありつけた若者に対しては特にね。リストラや就職難に対する恐怖心が安倍政権へのすがりつきをもたらしているのです。

 改憲可能な議席数を確保するためには選挙で圧勝しなければなりません。ですから安倍政権は、露骨な票目当てと批判されようが、公共事業などの景気刺激策を選挙に合わせて行ってきました。消費税率の引き上げ延期も2度行いました。それだけ改憲実現に本気だということです。

野望達成の手段

 安倍首相はこんな本音をもらしています。「アベノミクスと外交安全保障政策は表裏一体です。経済を成長させGDPを増やすことができれば、防衛費をしっかり増やすことができます」(2015年4月)。アベノミクスは改憲・戦争国家づくりという野望達成の手段なんですね。

 来年度予算がまさにそうです。安倍首相は税収増を自慢げに語りますが、その使い道は過去最大の軍拡です。「北朝鮮の脅威」を口実に、高価な米国製兵器を買いまくるつもりなのです。

 それにしょせんはグローバル資本に支えられた政権ですから、新自由主義型の財政政策(大企業・富裕層減税、その穴埋めとしての大衆増税や社会保障切り捨て等)を放棄することはありえません。

 いま世界では、反緊縮財政を掲げる左翼勢力が、政府の新自由主義政策に不満を持つ人びとの熱い支持を集めています。このムーブメントに学び、真に民衆のための経済政策を提起することが、アベノミクス幻想=「安倍支持」を崩すために重要なのです。

 世論調査が示すように、人びとは憲法の平和主義を高く評価しており、その変更を求めていません。改憲発議を許さない状況を作り出す展望は大いにあるのです。 (M)
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