2018年01月05・12日 1509号

【「全世代型社会保障」という名の社会保障解体攻撃】

 権力者が甘い言葉を多用するときは注意しなければならない。その一つに「全世代型社会保障」というものがある。2017年版厚生労働白書も現役世代の所得向上支援や全世代型の社会保障への転換が必要だ≠ニ強調している。もっともらしく聞こえるが、はたして安倍政権は全世代を対象にした社会保障を実行しようとしているのだろうか。

「全世代」とは高齢者攻撃

 自民党は、総選挙の公約に「幼児教育の無償化や介護人材の確保などを通じてわが国の社会保障制度を『全世代型社会保障』へ大きく転換する」と掲げた。だが、口先だけの甘い言葉にすぐさまボロが出た。緊急課題となっている待機児童問題を避けて「教育無償化」を提唱したのだ。

 では、「全世代型社会保障」はどのように説明されているのか。財政制度審議会が11月29日に発表した「平成30年度予算の編成等に関する建議」をみると、少子高齢化という社会構造の変化に対応するとして「高齢者や女性、障害者の労働参加を適切に推進する」「すべての世代が、その能力に応じて支え合う」「年齢ではなく能力に応じた公平な負担とそれに基づく全世代型社会保障の考え方が一層重要」とされている。

 高齢者や女性などが自主的に働きに出る、その条件が整えられることはたしかに歓迎すべきだ。ところが、この建議が求めたのはそうではない。これからは労働人口の減少が強まるので、高齢者・女性を無理やりに労働市場に送り込もうというものだ。たとえば、年金の支給年齢引き上げが画策されているが、それは高齢者を働かせるためである。

 「年齢ではなく能力に応じた公平な負担」とは何か。それを裏付けるとするデータを、17年版厚生労働白書が紹介している。1994年から14年の国民所得の推移で、世帯主が40代の家庭では所得300万円未満が増加している一方で、65歳以上の高齢者世帯では100万円未満が減り、200万から500万円の中所得層が増えているというのだ。このデータを都合よく解釈し、高齢者と現役世代の格差≠ェ広がっているから「年齢ではなく能力に応じて」負担を求める。その意味するものは、高齢者への予算配分を減らすことである。

負担できないなら早く死ね

 安倍政権の5年間で、社会保障負担増と給付減の総計は6兆5000億円に達している。その内訳は、医療で1兆円、介護で5400億円、年金で4兆8000億円、生活保護で1600億円である。

 さらに以下に述べる改悪策が強行されると、負担できない高齢者は早く死んでもらおうとなる。

 財政制度審議会や経済財政諮問会議は、さらなる社会保障改悪案を提言している。そこには診療報酬削減や介護報酬削減が盛り込まれていた。それを受け入れると、病院や介護の経営は脅かされ、働く人びとの賃金の引き下げにつながる。これは、安倍首相が企業に「賃上げ要請」していることとも食い違うことになる。安倍政権を応援する医師会や介護業界に配慮しつつ、削減反対の声に押されて診療報酬と介護報酬の引き上げを政府は決定した。

 だが、問題は何も解決しない。深刻な事態を引き起こす医療・介護制度の改悪が決められようとしているからだ。

 医療では、重症者や救急患者の多くが利用する「7対1病床」(患者7人に看護職員1人)の入院基本料1万5910円を「10対1病床」の1万3320円に引き下げるなど入院ベッドの再編と統合が行われる。これでは病院経営も圧迫され、安全で安心な医療の提供が妨げられてしまう。

 介護でも同様だ。訪問介護の生活援助サービスを制限できる仕組みが導入されようとしている。また、無資格者がサービスを行える新研修制度など、介護保険は質量とも切り縮められようとしている。

 高齢者が多い生活保護基準も引き下げられようとしている。生活保護基準はさまざまな社会保障制度に連動しており、引き下げは社会全体の貧困化を進めてしまう。

 安倍政権は、教育無償化などで世論の「歓心」を買う一方、社会保障に執拗な削減攻撃をかけている。そのためのスローガンが「全世代型社会保障」だ。現役世代と高齢者を対立させ、高齢者への予算を削減する。社会保障全体の予算を削減するのだから、現役世代の支援に回されることはない。同時に、削減で捻出された予算は軍事費拡大のためであることを広く伝えよう。

 
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