2018年01月05・12日 1509号

【原発賠償集団訴訟 3判決上回る内容獲得へ 津波は予見可能 「想定外」を否定 群馬・生業では国の責任認定】

 全国各地で争われている約30の原発賠償集団訴訟のうち、これまでに3地裁―3月17日群馬訴訟(前橋地裁)、9月29日千葉訴訟(千葉地裁)、10月10日生業(なりわい)訴訟(福島地裁)―で判決が出ている。3つの判決の意味と今後の課題を考える。

津波の予見は可能だった

 全電源喪失の原因となった敷地高を超える津波の到来に関する予見可能性については3判決とも認めた。大津波については2002年7月、政府の地震調査研究推進本部がマグニチュード8・2クラスの地震が福島県沖(日本海溝)で発生する可能性を公表していた。予見できた時期については「2002年7月末から数か月後には」(群馬)「遅くとも2006年末までに」(千葉)「2002年末までに」(生業)と異なるものの、いずれも予見可能とした。

 結果回避の可能性については判断が分かれた。群馬判決は「給気口のかさあげ、配電盤および空冷却式非常用ディーゼル発電機の高台への設置および常設ケーブルの地中敷設のいずれかが確保されておれば事故は発生しなかった」とし、生業判決もタービン建屋の水密化等の措置を講じることは可能だったとした。一方、千葉判決は「原告ら主張の各回避措置を採ったとしても、事故を回避できなかった可能性もある」と否定的な見方を示した。

 しかし、3判決とも津波の到来を予見することは可能だったとしたことで、国・東京電力が主張する「想定外の津波」は明確に否定された。これは、原発事故が「人災」だったと認めたことを意味する。

認められた原発事故は人災

 もともと東電には、原賠法(原子力損害の賠償に関する法律)に基づく無過失責任があり、過失があってもなくても賠償責任がある。裁判の争点は、過失責任があるのかどうか、賠償の対象範囲と金額だ。東電の責任については、3判決とも民法709条(不法行為責任)の適用を否定。その上で群馬判決は、予見可能であったのに回避措置をとらなかったのは「経済的合理性を安全性に優先させたと評されてもやむを得ない」と指摘。慰謝料の算定においては加害者の「非難性」が考慮されるとした。千葉判決と生業判決は、重過失までは認定できないとした。

 国の責任については判断が分かれた。群馬判決は「2008年3月頃には結果回避措置のいずれかを講じる旨の命令を発すべきであった」として、規制権限不行使による国家賠償法1条の責任を認め、東電との連帯責任とした。千葉判決は「国の対応は違法とは言えない」として、国の責任を否定。生業判決は「国が2002年末までに規制権限を行使していれば事故は防げた」として、再び国の責任を認め(ただし、国の責任は2次的で東電の半分)、千葉判決の否定的影響を打ち消した。

避難の相当性は判断割れる

 区域外避難者(いわゆる自主避難者)の場合に損害賠償の根拠となる「避難の社会的相当性」については、裁判所の判断はばらばらだ。

 群馬判決は、原賠審の中間指針の限界を指摘し、避難指示区域外の避難者にも慰謝料を認めた。避難やその継続についても、「年間20_シーベルトを下回る低線量被ばくによる健康被害を懸念することが科学的に不適切であるとはいえない」「実効線量の低下や避難指示の解除があったからといってたやすく帰還できるものではない」と一定の理解を示した。

 千葉判決は「避難指示等によらないものの、事故直後に避難した者については、被ばくへの恐怖を抱き、避難を選択することも合理的な場合がある」とする一方、「一定期間後に避難した者で、単なる不安感で避難した者については、避難の相当性は認めることができない」とした。

 生業訴訟は、多くの福島在住者が原告となっており、「原状回復」を求め、「代表立証」で請求するなど他の集団訴訟とは目的、請求が異なる特徴がある。判決では、自主的避難等対象区域旧居住者について「空間線量率が20_シーベルト/年に達しないとしても、賠償に値するものと認められる」「避難することもやむを得ない選択の一つであった」とし、さらに国の中間指針を超えて県南地域や茨城県北部(水戸市、日立市、東海村)の旧居住者にも損害を認めた。一方で、2012年1月以降の期間や会津地域、宮城県、茨城県南部、栃木県については空間線量率が5_シーベルト/年を下回っていたことなどを理由に「賠償すべき損害は認められない」とした。

賠償額はいずれも不十分

 群馬判決は、避難指示区域からの避難者には既払い金以上の損害はないとする一方、自主的避難等対象区域には20〜70万円の損害を認めたが、「加害者の非難性」を考慮するとした割には賠償額の低さが目立つ。この原因は、原告側が避難に伴う精神的損害(慰謝料)のみを請求したことに加え、判決が「平穏生活権の侵害」を「自己決定権の侵害」と狭く解釈したことによるとされる。

 千葉判決は、財物損害について「失われた価値の喪失・減少分が損害になる」としたほか「避難生活に伴う慰謝料」も認めたが、避難指示区域の内外で大きな格差を設けた。

 生業判決は、「ふるさと喪失損害」を認めながら、「中間指針等による賠償額を超える損害はない」とした。また、自主的避難等対象区域や県南地域については賠償期間を「冷温停止宣言」(2011年12月)までの10か月間に限定し、額も極めて少額しか認めなかった。

被害救済へ政策転換を

 こうした不十分点を持ちながらも、どの判決も中間指針の枠を超えて東電の損害責任を認め、2判決は国の責任も認めたことは今後への足掛かりとして評価できる。このことは、裁判官が「生き証人」である避難者の痛切な訴えやそれを支持する市民の存在(傍聴や公正判決署名)、根強い反原発世論を無視し得なかったことを示している。

 京都訴訟(3/15)、東京訴訟(3/ 16)、いわき避難者訴訟(3 /22)と判決が続く18 年3月は大きな山場となる。原告の請求に応えた勝利判決をかちとる必要がある。

 この3訴訟判決を前に原発被害者原告団全国連絡会は、1月27日に東京で全国総決起集会を開き、統一要求書を発表し、支援の輪を大きく広げようとしている。同日には全国支援ネットワークも結成される予定だ。こうした動きとともに全国的世論に訴え、安倍政権の被ばく強要・帰還政策の転換、在住者を含めた被災者への抜本的救済策を実現しなければならない。

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