2018年01月05・12日 1509号

【元国立市長への不当な賠償金4556万円/全国からのカンパで完済―祝賀集会/ 全国5000人が「私も上原公子」/司法・行政ただした市民自治】

 元東京都国立市長の上原公子(ひろこ)さんに課されていた不当な損害賠償金4556万2926円が、全国約5000人の市民から寄せられたカンパにより全額弁済された。12月16日、国立市内で「祝完全弁済 『私も上原公子』 市民自治・私たちの選択」と銘打って報告集会が開かれた。

 集会を主催したのは、「くにたち上原景観基金1万人の会」と「くにたち大学通り景観市民の会」。

 この問題は1999年、文教都市・国立のシンボルともいえる大学通りに巨大マンションの建設が計画されたことに始まる。自分たちが守り育ててきた美しい街並みを壊されたくないという市民の願いを背に市長となり、景観保護のために積極的に行動したのが上原さんだった。これが「住民運動を利用した営業妨害」に当たるなどとして上原さん個人に損害賠償を命じた東京高裁の不当判決が16年12月、最高裁で確定してしまう。

 市民の意思を実現しようとした元市長ひとりに巨額の賠償を負わせるわけにはいかない。17年2月、景観基金1万人の会が発足するや、「私は(も)上原公子」とカンパを拠出するうねりは国立市民のみならず全国に広がり、5月に元金、そして11月21日には利息分と全額を支払い終えるに至った。「司法上での『負け』による賠償金の、市民による『完全弁済』は、誤った司法と行政に対する市民自治の勝利宣言」。会の声明は高らかにうたい上げている。

支援の市民を表彰

 祝完全弁済の集会は表彰式で始まった。表彰されたのは「上原基金をご支援くださった市民の皆さん」だ。基金代表理事の佐藤和雄さん(元小金井市長)と景観市民の会の家坂平人さんが経過を報告。家坂さんは「4回にわたって最高裁前に行き、国立の市民自治の歴史を載せたチラシを配ってアピールした。司法の間違った決定には市民も大いに声を上げていいんだという思いを持った」と振り返る。

 128人に上る基金の呼びかけ人からも多くのゲストがかけつけた。「最高裁を頂点とする今の裁判所は本当にひどい。最高裁事務総局を中心に築かれた司法官僚帝国を破るのは並大抵ではない。危機的状況の中で市民が頑張り、こういうことができた。誇りに思う」とたたえたのは、弁護士の五十嵐敬喜(たかよし)さん。

 同じく弁護士で安保法制違憲訴訟の会共同代表の伊藤真さんは「憲法13条で幸福追求権が保障されている。幸福の中身は一人ひとりが決める。自分が何を幸せと感じるのかは自分で決める。自己決定権ともいう。自分が幸せを感じられる街を自らの意思で、市民の力でつくり上げていく。市民の自己決定権を形にしたのが上原さんの政策だった。支払う必要のない賠償金を支払うことで私たちは大きなものを得た。市民自治だ」と力説する。

 翻訳家の池田香代子さんは「ドイツと日本を比べて痛感するのが、市民力の差。戦後70年を記念してベルリンのゲシュタポ本部のあった場所にナチスの残虐行為を示す国立の博物館ができた。長年の市民の運動が基になっている。でも次からベルリンには、日本の市民力もすごいという気持ちで行ける」と話した。

「負けて勝った」

 「一番よく闘った者が孤立して一番ひどい目に遭うというのは運動の仁義に反し、あってはならない」と切り出したのは、ノンフィクション作家の鎌田慧さん。「上原公子を犠牲にするなという運動が広がり、最高裁判決から1年経って上原さんを奪還できた。いま沖縄の翁長(おなが)さんが全身全霊を込めて闘い、オール沖縄で支えているが、日本政府は歯牙(しが)にもかけない。翁長さんを、山城博治さんを孤立させず、政府の沖縄差別をはね返す闘いを」と訴えた。

 国立音楽大学名誉教授で杉並区在住の小林緑さんは、自らが企画した区主催のコンサートでプログラム中の「平和憲法」の語を「政治的だから書き直せ」と区が求めたことを明かし、「ショックを受けた。地方自治は一体どうなっているのか」と問いかける。

 上原さんがマイクをとる。「“負けて勝った”と思っている。司法のゆがみをただす新しい運動だった。沖縄の翁長知事個人に何百億と求償して萎縮させようという動きの前例として私への判決がある。翁長知事も山城さんも私の大学の後輩。闘う精神はみんなつながっている」

 行政のトップの賠償を市民が肩代わりする。史上初めての出来事だ。自分が当事者。その運動が権力に負けない力となる。市民自治の新たな営みがここからスタートする。



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