2018年01月05・12日 1509号

【2018年 アジア民衆との連帯で改憲・戦争政策を阻止する インタビュー MDS(民主主義的社会主義運動) 佐藤和義委員長】

 戦争と憲法改悪をめぐる重大局面を迎えた今、2017年を振り返り、2018年改憲阻止の展望をどう切り開くか。MDS(民主主義的社会主義運動)佐藤和義委員長に聞いた(まとめは編集部)。


揺るがぬ市民・野党共闘

 2017年の特徴は、安倍政権が追い詰められ7月都議選で大敗北を喫したにもかかわらず、衆院選で巻き返し、議席を維持したことだ。

 安倍は支持率が低下し、限界に来ていた。追い込んでいくチャンスだった。だが、都議選で小池都知事の都民ファーストの会が票をかすめ取り、続いて小池は衆院選で「希望の党」を立ち上げ、民進党解体へとつなげていった。連合と民進党右派が党解体へと動いた。権力の側は、民進党解体を進めることで野党共闘解体をもくろんだ。野党共闘の弱点を突く策動だった。民主主義勢力、改憲反対の側は立憲民主党を加えて市民と野党の共闘を立て直したものの、結果的には自公で3分の2の議席を許してしまった。

 MDSは、都議選以降も特に安倍内閣打倒を前面に打ち出して一気に追い詰めることを主張し、署名運動を展開していったが、民主主義勢力全体では安倍打倒が不明確なまま衆院選を迎えてしまった。しかし、民進党右派が野党共闘から脱落したことで、安倍打倒・改憲阻止のスローガンは一層明確になる。市民・野党共闘は、牽引してきた市民の闘いがゆるぎないものにしていくだろう。

弱さ抱える改憲勢力

 10月衆院選では、自民党は初めて憲法改正を選挙公約の冒頭部分に挙げた。ところが、実際の選挙戦ではほとんど触れなかった。最近あちこちで「自公支持は3割で、5割は無党派、2割は左派」と言われている。自民は、世論調査などでリアルタイムに市民の反応を測った結果、選挙対策として改憲には口をつぐんできたのだろう。そして、選挙が終わってから改憲を前面に押し出してきた。

 改憲派が一番望んでいるのは「9条改憲」と「緊急事態条項創設」だ。彼らにとっても、まだまだハードルが高く苦しい。自公の得票数は伸びておらず、決して支持が増えている訳ではない。改憲を発議しても国民投票で絶対に勝てる保証はない。したがって、自民、維新といった純粋な改憲政党だけでなく、公明党や希望の党も取り込み、国会内の圧倒的多数を改憲派にしたい。教育無償化、合区解消などを出し、戦争のための9条否定という印象を薄めて改憲へ誘導するのは、国民投票の困難さを考えているからだ。

 イギリスでも自信を持っていたEU残留派が国民投票で負けたように、「何が起こるかわからない」と改憲推進の連中も思っている。

 9条改憲を実行するために、安倍らは「9条3項を起こして、自衛隊の存在を書き込む」という無茶を言い出している。「現在の自衛隊を書くだけだから、何も変わらないよ」と言いながら、9条1項、2項の戦争放棄、交戦権の否認、戦力不保持を死文化する。法の成り立ちからしてわけのわからないことを打ち出す。

 これは改憲勢力の弱さの表れだ。他国を侵略する軍隊、その正体は「国防軍」だが、「自衛隊」として憲法に書き込まざるをえないという難しい課題が彼らにはある。かりに国会発議となっても、公明党は9条改憲は時期尚早と言い、改憲賛成の希望の党もどういうテンポで進めるかで異論を持っている。それらを見据え、改憲勢力の矛盾をついていけば、改憲阻止の可能性は大いにあると思う。

「青年層自民支持」の理由

 衆院選結果などから、10代〜30代の若い世代では自民党支持が多いと言われている。生まれた時から新自由主義の中にいて、民主的権利、労働者の権利が抑圧され、貧困と自己責任の社会が当たり前となっている。そういう時代を若者らは生きてきたのではないか。毎年給料が上がり、高校・大学を出れば正社員で就職し、定年まで勤めるといった20〜30年前の日本社会の中で一般的であった生活感覚は、今の若い世代は持ちようがない。青年層労働者の半分は非正規で、正社員として就職できるか、同じ会社にずっと居るかどうかも分からない。給料も上がる保証はない。そうした不安の日々を生き、それを変える展望がない中で、やむなく現状肯定しているように思える。

 権力は、諦めと無関心を増やし、3割程度の支持をとりつけて少数による支配を維持しているにすぎない。

 国会を見ても、与党議員の馬鹿馬鹿しいやらせ質問、官僚たちの全く不誠実な答弁、「ていねい」と言いながら何も説明しない安倍のふざけた態度ばかり。議会制度そのものが無意味だ、言っても無駄だという空気にしていく。その上、労働そのものが厳しさを増している。どんな企業も20〜30年前と比べればブラック企業に見え、公務員も同様だ。青年層は自分の生活を守るだけで汲々(きゅうきゅう)としている。その若者たちに社会や政治に関心を持たせないようにするシステムが働けば、現状維持になりかねないと思う。

 高度経済成長期の自民党支配の下では、市民の中にも受益者はいた。しかし、新自由主義が蔓延する現在の日本社会には1%≠フ支配層以外には受益者などいない。米国ではかつて二十数人の富裕層が、国民の下位半数が持つ資産以上のものを持っていた。今や3人の大金持ちに集中する事態だ。日本も似たような状況となっている。

 だから、展望を示さなければならない。変革は可能だと。




闘いが展望示す

 今、『君たちはどう生きるか』(注1)という本が流行り、100万部売れているという。主人公のコペル少年はいじめ、差別、貧困などの社会問題に立ち向かえず、自分の弱さを嘆く。そのコペル君に彼のおじさんは「君がそういうふうな事柄を考えることそのものが良いことなんだ」と肯定し、そこから考えていけばよいと語りかける。打ちひしがれた若者が励まされ、共感を呼んでいるのかもしれない。だが、現実の社会の中で苦しい思いをし、理不尽なことに怒りを持っても立ち向かえない構造にいる青年層に、沈黙を守り、今はひたすら耐えることを正当化する根拠を与えているのではないか。

 確かに今の青年たちが生きる環境は、学校・職場などすべての場で抑圧が強まり、基本的人権が否定され続けている。その中で、生きて行くための防衛策として立ち向かわないという心理状態になることもあるだろう。けれども、それでは状況は好転しない。権力は、ありとあらゆる装置を使ってあきらめさせ、あるいは考えているうちにさらに抑圧を強め攻撃してくる。

 巡航ミサイルまで配備するなど、安倍のでたらめな軍備強化を見れば「専守防衛」などとっくに捨てている。その軍拡とセットになっているのが、福祉の徹底した切り捨てだ。立ち向かわなければ生存すら脅かされる時、立ち止まり考えることを肯定するにとどまるのではなく、実際に「君たちはどう生きるか」という方向を示さなければならない。そうでなければ青年たちは「どう生きるか」と考えているうちに、ますます追い詰められてしまう。だから、そうした苦痛を踏まえながらも、「闘えば変えられる」と実感を持てるような闘いで展望を示すことが必要だ。

搾取と切り捨ての「改革」

 権力はあらゆる分野で様々なごまかしを行う。世論の動向を考え、本質的には戦争とカネ儲けのためだとしても、そうではないよう偽装しなければ進められない。

 たとえば「働き方改革」でも、建前は「長時間労働を廃止して効率よく働く」だが、全くひどい内容だ。残業100時間OK、残業代も払わない、と徹底的に搾り取ろうとしている。本質的には労働強化なのに「働き方改革だ」と、そうではないように見せかけて進める。そして通れば、本質をむき出しにする。

 福祉切り捨てでも、あからさまに切り捨てとは言わない。

 介護では、実態は切り捨てだが、それを自立援助だとか自立支援だという。介護保険から要支援1、2を切り捨て、今度は要介護1、2まで切り捨てようとする。訪問介護は、利用が多すぎて無駄だという。生活援助は、関わるヘルパーの養成を短時間の研修ですます。すべて安上がりにやろうとする。その上で、自立支援のためのインセンティブと称し、「改善」し利用者の介護度を下げた事業体にはカネを出す。これがもたらすのは尊厳ある暮らし≠ナはない。回復の見込みが少なくなった人たちが少しでも快適な生活を送り、人生をまっとうできるようにすることが否定される。無理やり体操させ、介護度を引き下げるなどということを平然とやる。

 保育も同じで、待機児童解消と言う。しかしその手段は、基準よりも上乗せして質の高い保育をする公立保育所の保育を最低基準に引き下げ、保育全体の質を下げて数合わせだけの増設ですます。あるいは企業内保育所など、できるだけ安上がりにする。権力側は、子どもの権利である健やかな成長を保障するためではなく、労働力維持の観点でしか待機児童問題を考えていない。生活保護の母子加算も削る。闘いの力で譲歩させたものもあるが、トータルでは削減となっている。

戦争改憲は生活破壊

 戦争・改憲路線では社会保障の充実はありえない。

 イージス・アショアは2基2000億円、ミサイル迎撃のためには2兆円使う。大軍拡と社会保障充実の両立は絶対にありえない。だから、社会保障を削る。徹底して削る。

 軍事費をなくし、金持ちと法人にきちんと課税すれば、財源はいくらでもある。

 今回の所得税改定を「金持ち増税だ」と宣伝するが嘘だ。年収850万円以上が増税でも、孫正義(ソフトバンク会長)や柳井正(ファーストリテイリング会長兼社長)は増税になるか。ならない(2面下図)。

 彼らは給与所得(役員報酬)ではなく、配当収入で富豪になっている。その課税が20%では、税金は全く増えない。株式配当も含め膨大な収入を得ている富裕層に累進課税すれば、はるかに税収は増える。

 減税を続けている法人税も元に戻す。産業界が少子化対策の負担をするといってもたかが3000億円だ(注2)。史上最高400兆円を超える内部留保をため込んでいるグローバル企業の法人課税を強化すればいい。

国家財政むしばむ資本

 ここまで膨れ上がったグローバル資本はさらに高い利潤を政府に要求する。だが、労働者市民の生活を徹底して抑制しているのだから、物を大量に売って稼ぐことはできない。

 だから、グローバル資本は国家財政に利潤の源泉を求める。軍事費を増やす、リニア新幹線を作る。あるいは、教育、医療、福祉という公的分野に規制緩和で参入する。

 医療分野では、手厚く治療するのにカネを使うのではない。検査の正常値を上下させることで病気を作り出し、インフルエンザ・ワクチンのような効きもしない薬で儲ける。

 介護も、保険適用の訪問介護を利用しづらくし、保険外訪問や入所など、パナソニックや大手の介護ビジネスに儲ける場を与える。

 そのような儲け方も限界にきている。運輸業界の人手不足は限界だし、介護・福祉分野でも今の低賃金では働く人がいなくなってしまう。

 限界が来ているにもかかわらず、より儲けるために、「アベノミクス」で日銀は金融緩和策をとり金をどんどん市場に流し込み、利益の場所を用意してきた。これだけ財政が緩み政府の借金を累積させていけば、どうしようもなくなってくる。通貨大暴落や大インフレが起きるすれすれまできている。

 日本だけの問題ではなく、グローバルな大金融恐慌の恐れを抱えている。黒田日銀総裁たちは、その場限りの博打をしているのと同じだ。誰もが危険だと思いながら、利潤を追求するあまり止められない。民主主義の側が展望を示しグローバル資本の活動を制限し封じ込め、社会福祉・教育・医療充実の方向に転換させる必要が増している。

戦争と新自由主義阻止へ

 世界に目を向ければ、米大統領選での民主党サンダース候補の前進、イギリス労働党、ヨーロッパ各国の反緊縮の闘いなど、グローバル資本のやり方ではだめだという動きがいっぱい出てきている。

 日本でも政府の戦争政策に対して、沖縄の闘いが続いている。闘いの積み重ねが、辺野古新基地建設は決して米軍だけのものではなく、自衛隊のためのものであることを明らかにした。南西諸島自衛隊配備が、朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核・ミサイル実験を口実とした対中包囲網づくりであることがはっきりしてきた。軍事基地が増大すれば、事故・事件が起きる。これは軍隊の本質だ。いくらでも発生する。沖縄県民の生活をかけた闘いは、安倍の軍事力強化とせめぎあっている。辺野古・高江の異常な弾圧は、むき出しの暴力を使わざるを得ないほど沖縄の闘いが強いことを示す。安倍の戦争政策を突破していける可能性が強いということになる。

 安倍、トランプの戦争路線を阻止する展望は、アジア全体の連帯にある。

 12月ZENKOスピーキングツアーで示されたように、韓国の米軍基地、韓国軍基地に反対する闘いは、沖縄の人たちとの連帯を求めている。改憲阻止も、日韓の連帯の中で闘い抜ける。展望は、世界の様々な国で青年たちを含め市民が変革のために立ち上がっていることに見出せる。戦争反対、反基地の国際連帯は大きな成果を生んでいる。

 トランプの支配は盤石どころか大きく揺らいでいる。長期間続いたイギリスのグローバル資本主義の政権も揺らいでいる。それらがグローバル資本の支配を崩す展望だ。

 安倍政権も嘘とごまかしを重ねて新自由主義政策を続けているが、本質的に自民党は絶対投票率2割未満で多数派ではない。小選挙区制のシステムを使い、無関心やあきらめを作り出すことで支配を維持しようとしている。支持されなくても反対勢力に組織させなければよいとの戦略だ。そして、彼らは改憲という重い課題を抱えている。

 単なる政党の組み合わせではなく、市民の力で共闘を強め、戦争路線は生活破壊であることを明確にし、闘っていくことで改憲阻止は可能だ。

 市民・野党共闘強化の展望は、地域に、全国に広がっている。市民と対話し安倍の嘘を暴き共闘を下から強めるところに、9条改憲NO!3000万署名や核兵器禁止条約調印署名の意味がある。署名運動は地域変革の端緒となる。

 地域変革とは、権力の支配に一から対決し、変えていくことだ。運動に自分から近づいて来る人だけに働きかけるのではなく、地域のすべての人びとに働きかける。選挙はその最たるものだ。MDSは参院選、衆院選、地方議会選挙を闘ってきた。選挙戦を通じて運動と展望に確信を持つ人たちが出てきている。

 日本でも、反原発闘争や秘密法、戦争法、共謀罪反対闘争に見られる市民の広範な運動がある。闘いのエネルギーは、地域の中に常にマグマとして胎動している。

 9条改憲はアジア全体のテーマだ。アジア民衆と連帯して闘い、改憲を阻止する2018年としよう。

(注1)吉野源三郎(1899〜1981、編集者・児童文学者、雑誌『世界』初代編集長)の『君たちはどう生きるか』(1937年)を原作にした漫画(羽賀翔一)。

(注2)11月30日、「人づくり革命」の会議の場で、榊原経団連会長が待機児童対策に産業界が3000億円を負担することを表明。認可保育所運営費や従業員のための「企業主導型保育所」整備費に充てる。消費税10%への引き上げを前提条件としている。











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