2018年01月19日 1510号

【新幹線「のぞみ」台車破断寸前/JR西、尼崎事故から体質変わらず】

 昨年12月11日、新幹線「のぞみ」(博多〜東京)の走行中に相次いで異音、異臭などが発生し運転を打ち切る事故があった。

 事故を起こした車両は台車枠に大きな亀裂が入っており、台車が完全な破断に至る寸前だった。国土交通省は新幹線初の重大インシデントに認定した。JR史上最悪となった尼崎事故(2005年、死者107人)からまもなく13年。背景に、事故から変わらないJR西日本の企業体質が再び浮かび上がる。

異常なのに止めず

 同社によれば、異常は始発駅、博多を発車して約20分後、小倉発車直後に発生。7〜8号車付近で焦げたような異臭がするのに乗務員が気付き、車掌が車内を調べたが、車内から異常が確認できなかったためそのまま走行を続けた。

 岡山から保守を担当するJR西日本社員が乗車し発車。13号車付近でうなるような異音を確認したが、走行に異常はないと判断。保守担当社員は新大阪で降り、さらに走行を続けたが、名古屋でようやく走行不可能と判断。運転を打ち切った。

 異音が確認された13号車の台車枠(鋼材製)のうち幅16センチの底面は完全に割れていた。両側面17センチのうち亀裂は14センチに達し、あと3センチで破断の重大事態だった。仮にこのまま名古屋で運転を打ち切らなければ、次は新横浜まで約1時間20分停車駅がない。完全に破断し脱線などの大事故につながっていた可能性もあった。

 「のぞみ34号」で異常が始まった小倉(13時50分発)から名古屋(16時53分着)まで3時間。乗務員、車掌、保守担当社員らが異常に気付きながら誰ひとり列車を止める判断をしなかったことは重大だ。




検査は目視だけ

 JRの検査体制のずさんさも明らかになった。新幹線を運行するJR5社(四国以外)による台車の検査は腐食や変形がないかを目視で確認するだけ。超音波(エコー)を当てて反射音や波長の変化から内部の傷を探り当てる超音波探傷検査は車軸に関しては行われていたものの、台車については「亀裂は想定外の事態」(JR東海)として行われていなかった。

 詳細な事故原因については今後、運輸安全委員会の調査を待つ必要があるが、鉄道に詳しい作家・冷泉彰彦さんは金属疲労の可能性も指摘する。国鉄分割民営化当時の被解雇者のひとりで、鉄建公団訴訟の原告でもあった田中博さん(元国労稚内闘争団)は国鉄時代、保線を担当していた。線路と台車は必ずしも同じではないとしながらも「金属疲労は目視では確認できず、自分の国鉄時代でも線路の小さな傷は超音波探傷検査で調べていた。目視検査だけですませることは通常、考えられない」とJRの検査手法に疑問を呈する。

「企業体質変わらず」

 JR西日本は今回、尼崎事故遺族に対し、自主的にこののぞみ事故に関する説明と謝罪を行った。一方、尼崎事故につながる懲罰的日勤教育などの企業体質を作った井手正敬(まさたか)元社長は、同事故に企業体質は無関係と答えている(12/27朝日)。「福知山線事故でさえこんな認識で信じがたい発言。このままでは今回の事故もJRは十分説明せず幕引きにしかねない。今回のトラブルの重大さを繰り返し訴えていく必要がある」。尼崎事故で娘を失った藤崎光子さんは怒りをあらわにする。

 「事故の教訓が引き継がれておらず、現場が意見を言いにくい企業体質が残っているのでは」と指摘するのは、同じく娘を失った大森重美さん(「組織罰を実現する会」代表)だ。尼崎事故後、JR西日本が導入したリスクアセスメント(危険管理制度)について、2009年にJR西労組が行った調査で組合員の3割が問題点を「報告しにくい」と回答している。JR西日本の企業体質はまったく変わっていない。

 検察審査会の議決によって井手元社長らJR3幹部が強制起訴された刑事裁判は昨年、全員無罪の判決が最高裁で確定した。井手元社長が事故と企業体質の関係を否定する背景には、企業の責任を問えない日本の制度の問題もある。企業に刑事罰を問える制度創設を含め、グローバル資本の犯罪に歯止めをかける闘いがこれまで以上に必要だ。
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