2018年01月19日 1510号

【日韓合意 検証報告/無視された「慰安婦」被害者/国家責任否定の「秘密合意」】

 日本軍「慰安婦」問題の日韓合意(2015年12月)の交渉過程等を調べていた韓国政府の作業部会は「政府間の秘密交渉で進められ、被害者の意見が十分反映されなかった」とする検証結果をまとめた。日本国内では「国と国の約束を破るのか」式の非難が渦巻いているが、真実と正義に反する合意を押しつけるわけにはいかない。

白紙に戻し再交渉を

 検証報告を受けた韓国のムン・ジェイン大統領は「この合意では慰安婦問題が解決されないことを明確にする」との声明を発表(12/28)。1月4日には「慰安婦」被害者8人を大統領府に招き、「(前政権が)皆さんの意見を聞かず一方的に進めた。内容と手続きの全てが間違っていた」と謝罪した。

 この大統領発言に日本政府は猛反発。「日韓合意は国と国の約束だ。1ミリも動かさない」(菅義偉官房長官)と、再交渉や追加要求には一切応じない姿勢を強調した。合意の非公開部分が明らかにされたことへの憤りも強く、外務省幹部は「そんな国とは外交はできない」と吐き捨てたという(12/28毎日)。

 日本のメディアも「韓国批判」一色に染まった。読売新聞や産経新聞は韓国政府を見下す調子で非難し、朝日新聞や東京新聞も「日韓不安定化は避けよ」(12/28東京社説)との立場から「順守こそ賢明な外交だ」(12/28朝日社説)と主張した。

 しかし、被害者を無視した秘密交渉で結ばれた政府間合意に何の正当性があるのか。手続き的にも内容的にも重大な欠陥があることが判明した以上、白紙に戻し再交渉を行うのが筋である。韓国政府は「両国間の公式合意だった事実は否めない」として再交渉は求めない方針だが、民主的手続きを踏んでいない決定に縛られる必要はない。

 外交秘密の公表も、主権者への情報公開という観点からすれば当然のことである。日米安保をめぐる様々な密約(基地使用、軍人・軍属の法的地位、核持ち込み等々)の存在について、頑なに口を閉ざしている日本政府からすれば「絶対にありえないこと」なのだろうが…。

「継承させない」意図

 さて、今回の検証で合意の非公開部分が明らかになったことにより、日本政府の意図がより鮮明に見えてきた。

 日本側要求の核心部分は次の3点である。(1)被害者支援団体が反発した場合、韓国政府が説得すること (2)日本大使館前に置かれた少女像の移転計画を具体的に示すこと。第3国における像や碑の設置も適切ではない (3)今後「性奴隷」という用語を使用しないこと。これらの要求をパク・クネ政権はおおむね了承した(表参照)。



 まず(3)について言うと、これは国家責任の隠ぺいである。安倍政権は「強制連行はなかった」論(これ自体が事実に反する)で責任逃れを画策しているものの、国際的にはまったく通用していない。世界の関心は軍「慰安所」における強制=性的虐待に向けられている。国策として「慰安婦」制度を設け、女性の人権を蹂躙していたことが「戦時性奴隷制」として厳しく批判されているのである。

 だから、安倍政権は「性奴隷」という表現に神経をとがらせ、その抹消を狙っている。「慰安婦→公娼の一種→当時は合法」という論法で、国家が主導した戦争犯罪であることを否定したいのである。

 (2)は歴史の継承を妨害することを狙ったものだ。本紙は日韓合意について「1993年の河野官房長官談話より後退した」と指摘していた(1411号8面参照)。河野談話には歴史研究や歴史教育によって記憶を永くとどめるとの文言があったが、日韓合意にはそうした部分がまったくない。「10億円さえ出せば何もしなくても済む構図が作られた」(吉見義明・中央大教授)というわけだ。

 こうした評価の正しさを今回の検証結果は証明した。日本政府が考える「最終的かつ不可逆的な解決」とは、究極的には「慰安婦」問題を「語らせない、伝えさせない」ことにあったのだ。

反省なき安倍の態度

 日韓合意によって安倍首相は「心からのおわびと反省の気持ちを表明」したことになっている。もしもの話だが、安倍自身が被害者への謝罪や反省の念を具体的な態度で示していたなら、今日の事態はなかったかもしれない。

 だが、安倍は「我(われ)関せず」を決め込んだ。合意についての公式会見は行わなかったし、テレビ出演で国民に説明することもなかった。世論の反発に苦慮した韓国政府が「おわびの手紙」を出してはどうかと提案してきた際も「毛頭考えていない」と断った。

 安倍御用記者として有名な産経新聞の阿比留瑠比(あびるるい)論説委員によれば、日本政府はもともと合意に基づき拠出した10億円を「手切れ金」(政府高官)と位置づけていたという(12/28産経)。実際、安倍首相は「あの時さっさと払っておいて本当によかった」と語っているそうだ。要するに、クレーマーをカネで片づけた程度の認識なのである。

 加害者側が反省皆無の態度を露骨に示していては和解が成立するはずもない。日韓合意の破綻は時間の問題だったといえる。

 民衆をあざむく合意を結んだパク・クネ政権は民衆の手によって打倒された。次は安倍政権の番である。歴史修正主義者が政権を握っている限り、「慰安婦」問題の解決はない。       (M)

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