2018年01月26日 1511号

【南北閣僚級会談が進展/トランプ「対話が続く間、軍事行動せず」/孤立する圧力一辺倒の安倍】

 朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核・ミサイル開発をめぐり軍事的緊張が続く中、2年ぶりに韓国と朝鮮による南北閣僚級会談が1月9日、軍事境界線板門店(パンムンジョン)の韓国側施設「平和の家」で開催された。軍事当局者会談の開催などを含む共同報道文を発表。緊張解消に向けた大きな動きをつくった。ところが、安倍政権は「対話のための対話では意味がない」と否定的な姿勢を示した。平和解決に背を向ける安倍政権は世界から孤立する。

対話解決へ大きな足がかり

 合意されたのは、2月9日開催の平昌(ピョンチャン)冬季五輪への朝鮮参加実現だけではない。軍事的な緊張解消のため、軍事当局者会談の開催とともに、「多様な分野での交流と協力を活性化する」こと、「南北宣言」(2000年)を尊重し「あらゆる南北問題をわれわれ民族が朝鮮半島問題の当事者として対話と交渉で解決する」ことが含まれている。つまり南北会談は五輪後も継続していくことになる。

 会談で確認された「南北宣言」とは00年6月、当時の金大中(キムテジュン)大統領が平壌(ピョンヤン)を訪問し、金正日(キムジョンイル)国防委員長と分断後初めての首脳会談に臨み、発表したものだ。南北が統一方法を提案。双方に共通する統一案をもとに自主的に進めることに合意し、南北離散家族訪問や経済協力、文化交流などを行うこととした。その結果、離散家族の再会や金剛山(クムガンサン)観光、開城(ケソン)工業団地事業などが実現している。

 今回の閣僚級会談は、文在寅(ムンジェイン)政権が冬季五輪参加を朝鮮に呼び掛けたことが契機となり、実現した。経済制裁などの強硬路線が朝鮮を軟化させたわけではない。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が南北会談に応じたのは米韓軍事演習の延期が表明されたことによる。米韓軍事訓練は朝鮮征服作戦の予行演習である。金体制は「訓練」がいつ「実戦」にかわるかもしれない緊張下に置かれている。軍事訓練中止は対話実現の条件として朝鮮が従来から主張していたものだ。少なくとも五輪・パラリンピック開催期間中は実施されないことになった。

 文大統領から会談の報告を受けたトランプ大統領は成功を歓迎し「南北対話が続いている間は、いかなる軍事行動もしない」と述べた。「時間の無駄」と否定的だった米朝会談にも「適切な時期と状況の下で」応じる姿勢を見せた。今回の会談実現が、軍事緊張緩和を生み出したことは間違いない。この状態を継続し、対話による問題解決へと進めることが何より重要だ。

相互不信を乗り越え

 ところが、こうした対話の進展を「(朝鮮の)時間稼ぎ」とけなし、妨害しているのが安倍政権だ。小野寺五典防衛相は1月9日、マティス米国防長官との電話協議で「対話のための対話であってはならない」と強調した。

 安倍やトランプは「25年間だまされ続けてきた」と、朝鮮との対話を否定する。念頭にあるのは94年の米朝枠組み合意による核開発凍結、05年の6か国協議による核放棄共同声明などが反故(ほご)にされたことだ。だが、朝鮮の「不誠実さ」を一方的になじるだけでは済まない。

 05年共同声明がなぜ破たんしたのか。6か国協議は2年がかりで共同声明をまとめた。「朝鮮は、すべての核兵器及び核計画を放棄し、核拡散防止条約に復帰すること」「米国は、朝鮮半島において核兵器を有しないこと、及び朝鮮に対して攻撃又は侵略を行う意図を有しないこと」

 1年後に朝鮮が初の核実験を行う。明らかに共同声明に反する行為だ。だが、この共同声明に前後して米国は朝鮮に対する金融制裁を行っていた。マカオにある銀行の朝鮮関連口座を凍結した。マネーロンダリングの疑いをかけたのだ。朝鮮は「米国の敵視政策は続いている」と反発した。結果として、米朝ともに「だまされた」と思った。

 解決の道は、相互の不信を乗り越えて、共同声明の内容を再度確認、履行する以外にない。今回の南北会談で朝鮮半島の非核化は議題とはならなかった。朝鮮は「交渉相手は米国」との姿勢を崩さない。しかし、「朝鮮は核兵器を放棄し、米国は侵略意図がないことを表明する」一度は合意した内容をもう一度確認するための糸口になるはずだ。

世界は会談を歓迎

 世界の反応を見よう。「われわれは北朝鮮の核・ミサイル危機が外交的な手法で解決されることが必須であり可能だと信じている」(カナダ外務省)。中国、ロシアに限らず南北会談による「対話」促進を歓迎する国は多い。「いかなる本音があろうともこのこと自体が歓迎に値する」(中国紙「環球時報」社評)と海外メディアも評価する。これが当たり前の反応だ。朝鮮にどんな思惑があろうとも「対話」以外に解決の道はないことは誰にもわかる。

 安倍は「北朝鮮問題など国際社会が直面している喫緊の課題について連携を確認したい」と語り、バルト3国及び南東欧3国に出向いた。「最大限の圧力」への賛意を集めて回るつもりだ。のべ30社を超える日本企業を伴い、「経済協力」提案とセットだ。

 「トランプ大統領と100%ともにある」と語って恥じない政治指導者に賛同するものはいない。トランプは、新年も「核のボタンが机の上にある」と虚勢を張る金正恩に対し、「俺のボタンの方が大きくて、強い」と返したかと思えば、今は「南北対話を静観する」と冷静さ≠示す。

 だが、安倍はこうした冷静さ≠煬にしない。朝鮮半島危機を利用し9条改憲を狙う安倍にとって対話が進展しては困るからだ。本当に朝鮮に核を放棄させたいなら、率先して核兵器禁止条約の締結を言うべきだ。「核による威嚇は犯罪である」ことを朝鮮にも米国、韓国にも他の核保有国にも認めさせることが必要なのである。

 大きな一歩である南北会談から、米朝、日朝会談実現へ、運動と世論の力で着実に歩を進めさせなければならない。



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