2018年01月26日 1511号

【貧困を拡大する生活保護費削減/すべての市民生活に波及】

 安倍政権が生活保護費削減の方針を決定した。食費や光熱費など日常の生活費である生活扶助、ひとり親世帯に支給される母子加算を10月から3年かけて平均1・8%切り下げる。現在生活保護の対象である世帯の67%が減額され、しかも連続した削減攻撃となっている。

 自民党は、2012年総選挙で「生活保護の原則1割カット」を公約した。安倍政権は、13年に生活扶助の段階的切下げで6・5%削減、15年に住宅扶助と冬期加算の削減を強行してきた。

 生活保護費削減が及ぼす影響はどのようなものか、安倍政権はなぜここまで徹底した攻撃を続けるのか、を考えてみよう。

最賃・住民税にも影響

 生活保護費削減攻撃は当事者だけの問題ではない。市民生活全体に深刻な影響を与える。生活保護基準が国民生活の最低限水準であるナショナル・ミニマムの指標となっており、さまざまな制度に連動しているからだ。たとえば、就学援助(経済的理由で就学困難な生徒の保護者に対する援助)は生活保護基準に一定の係数をかけて認定基準とする。

 最低賃金法第9条3項は、「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」と規定。最低賃金は生活保護を上回る水準にしなければならない。現実には逆転現象が生じ最低賃金の引き上げが行われてきたが、生活保護基準が下げられると最低賃金を引き上げる必要が薄れる。今でもまともに暮らせる額ではないのに、引き上げがなければ多くの労働者の貧困は深刻化する。

 住民税の非課税基準は、夫婦2人世帯で生活保護基準を下回らないよう地方税法等で決められている。住民税の非課税基準が生活保護基準の引き下げに連動すれば、課税になる世帯が少なからず生まれる。課税になると、医療保険の高額療養制度、入院中の食事療養費・生活療養費、養護老人ホームの入所、ひとり親家庭への日常生活支援事業など多くの制度で負担増となってしまう。さらに、住民税の課税額で利用料などが決められている国民健康保険料・介護保険料・保育料などが上がる。その負担増は当該世帯を直撃する。

 低所得者層を中心に生活が窮地に追い込まれ、格差と貧困がますます広がっていく。その他、大学の授業料や入学金の免除基準に生活保護水準が参考にされているなど、市民生活への影響ははかり知れない。

 

軍事費確保が目的

 日本総研の報告書によれば、17年後の2035年には高齢者の生活困窮世帯(予備軍を含む)が27・8%、562万世帯に達するという。「減給やリストラの対象となり、年金や貯蓄といった老後資金を十分に積み上げられなかった」ことなどが要因、と分析している。

 現在生活保護を受給している高齢者世帯86万5千世帯(17年9月)と比べてほしい。6・5倍にもなる。

 多くの世帯が生活保護を受給すると財政負担は増大する。「戦争できる普通の国」にするために生活保護費の増大で軍事費を減らされたくない、と安倍政権は考えている。生活保護という一制度に対して執拗な攻撃を続けている背景にはこうした思惑が潜んでいる。

手段選ばぬ政府

 政府・厚労省は保護費削減のために物価指数の偽装まで行った。消費者物価指数の下げ幅が大きくなるように都合のいい年を選んで比較し、それを根拠に13年の生活扶助切り下げを強行したのである。今回も引き下げになるように統計を悪用した。10区分された所得階層の一番下の階層の消費水準に合わせているのだ。捕捉率(生活保護受給に該当する人が受給している割合)が20%台(厚労省発表では34%)といわれる現状では、一番下の階層に保護基準以下の収入しかない人が多く含まれている。この層と比較をすれば、引き下げを正当化する数値しか出てこないことは明らかだ。

 生活保護水準はすべての最低生活保障の下支えであり、岩盤である。本来であれば岩盤を強化するために「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するには低すぎる生活保護基準を引き上げなければならない。今回の削減攻撃はこの岩盤をますます切り崩す暴挙だ。深刻な負担増を引き起こし、すべての市民生活に直結する。広く知らせて攻撃を止めなければならない。
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