2018年01月26日 1511号

【未来への責任(241)「幕引き」合意の正体明らかに】

 昨年12月27日、韓国外相直属の「慰安婦」問題日韓合意検証チームは、その検証結果を報告した。報告書の「結論」の第1項で、検証チームは以下のように述べている。

 「戦時の女性の人権に関して国際社会の規範となっている被害者中心のアプローチが、慰安婦交渉の過程で十分に反映されず、一般的な外交懸案のようなやりとりに終始する交渉で合意がなされた。韓国政府は(中略)交渉過程で被害者の意見を充分に聴き取ることなく、政府の立場中心に合意を結んだ。今回のケースのように、被害者が受け入れない限り、政府間で慰安婦問題の『最終的・不可逆的解決』を宣言しても、問題は再燃せざるを得ない。慰安婦問題のような歴史問題を、短期的な外交交渉や政治的妥協で解決することは難しい。長期的に価値と認識を広め、未来世代への歴史教育を並行して推進しなければならない」

 真っ当な結論だと思う。すでに2016年3月、国連女性差別撤廃委員会は「慰安婦」問題に関して日本政府が、人種差別撤廃委員会、自由権規約委員会、拷問禁止委員会、人権理事会等からいくつもの勧告を受けていることを指摘し、それらの勧告を実施していないことに遺憾の意を表していた。日韓合意に関しては、被害者中心のアプローチを十分に採用していないこと、被害者に対する国際法上の責務が果たされていないこと等に懸念を示し、日本政府に被害回復のための措置を行うよう勧告していた。検証チームの報告は、基本的に女性差別撤廃委員会の意見と重なる。「前政権の失政を強調したい現政権の思惑」から出たものでもなければ、「問題の蒸し返し」でもなかった。

 ところが、この検証結果に対し、日本政府は「合意を変更しようというのであれば、日韓関係はマネージ不能となる」(河野外相)との談話を出した。メディアも「慰安婦合意検証 履行を怠る言い訳にはならぬ」(12/28読売)「日韓合意の『検証』もう責任転嫁は許さない」(12/28産経)などと威丈高に文在寅(ムンジェイン)政権批判を展開した。これら日本政府、メディアの反応から見えてくることは、あの合意は被害者に謝罪、補償などを行うことで問題解決を図るという性格のものではなく、単に「幕を引く」ためのものでしかなかったという事実である。米政府の圧力を受けて、首相官邸、青瓦台が、被害者の同意・理解を得ることなく、頭越しに合意して問題を終わったことにした。これが日韓合意の正体だった。そんな合意を被害者が受け入れるはずはなかったのだ。

 検証結果を、被害者や挺身隊問題対策協議会は歓迎している。一方で、検証を踏まえての後続措置の具体化は簡単ではない。文政権は、合意の破棄・再交渉は求めない、としている。その中で、被害者の人権・尊厳の回復をどう図っていくか。その第一義的責任は日本政府にあり、日本政府次第でもある。そのことを忘れてはならない。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

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