2018年01月26日 1511号

【民主主義の先端を拓くソウル市ルポ(下) 若者が提案・採択し実行する青年議会 寄稿 土屋のりこ 東京・足立区議】

 11月23〜25日、日韓交流ツアーに参加した平和と民主主義をともにつくる会・東京代表の土屋のりこ足立区議のソウル市ルポを1509号に続いて掲載する。

 ソウル市長のパク・ウォンスンさんは弁護士であり、キャンドルデモを率いてきた韓国の代表的な市民運動グループ「参与連帯」創設を担った活動家だ。2000年には女性国際戦犯法廷(民衆法廷)で韓国代表検事を務め、10万人以上の朝鮮人女性を強制連行、日本軍「慰安婦」とした罪で昭和天皇を起訴している。

 2011年野党統一候補として市長補欠選に出馬、当選。以降、「市民が市長だ」「堂々と享受できる福祉」を掲げ、ソウル市は民主主義・市民自治の先端を切り拓いている。

「青年手当」も実現

 今回のソウル市でのたくさんの交流の中で、一番「すごい」と感じたのが青年議会だ。私が高校生の時に「模擬国連」という、高校生たちが集まり国際連合の大使など役割を模擬的に担う真似事が授業の一環としてあったが、ソウル市の青年議会はそうした「おままごと」とはわけが違う。

 交流ツアーで通訳をしてくださった大草稔さん自身、昨年の青年議会の一員だ。2015年から始まった青年議会は年に一度開催され、実際のソウル市議会の議場を使って行われる。就職できずにいる若者のための福祉政策など、これまで政治の手が届かなかった問題を解決するために政策を提案する役割を果たしている。関心を持つ青年が集まり、10くらいの分科会ごとに関心を掘り下げ、市の政策担当者も分科会に入って改善点や政策案を議論する。300人ほどの参加者が公募で申し込み、選抜はされない。

 若者版ベーシックインカムと言われる「青年手当」も青年議会で採択された議案の一つだ。週30時間以上の労働をしていない若者であれば、1か月約5万円を6か月間受給できる施策だ。

 初めて導入された2016年度は、社会的にも関心が集まり、毎日のように新聞でも報道された。ところが、ソウル市の民主主義政策を嫌ったパク・クネ政権が中止命令を出し、ソウル市は抗(あらが)い、最高裁まで闘っていた。市役所にも「若者の未来まで中止命令で奪えない」という大きな横断幕が掲げられ、パク・クネ中央政権の横暴と市を挙げて闘ったという。昨年、パク・クネが市民デモによって倒され、ムン・ジェイン政権になって実施できるようになった。今年度の5000人対象から、来年はさらに増やして7000人となる。

 今年度の青年議会ではギャップイヤーが採択された。学生の間は勉強尽くめ、社会人になれば仕事尽くめの若者にとって、1年の猶予をつくって自分の探求を行える時間的ゆとりを持つことが大切だ、と議決された。

 当事者が直接参加して、当事者として福祉策を提案し、実行し、評価も行っている。市の予算が青年議会の議決事項の執行に使われ、市が青年事業を運用する点が非常に画期的だ。

 足立区議会は区長提案議案をシャンシャンと議決するのみで、区民はおろか議員提案議案が可決されることは皆無に等しい。日本の議会の状況と比べると、ソウル市の青年議会の取り組みは、市民である青年自らが決め政策を動かしていける。何度言ってもおかしくないほど画期的だ。

足立にも、日本各地にも

 他にも、ソウル市は「生活賃金」という、最低賃金より高い金額の賃金保障制度、労働者の労働理事制度(労働者代表が理事会に入り意思決定に関し議決権を行使できる制度)、公共機関で働く非正規職の正規化、ソウル市立大学の授業料半額化、学校給食の無料化を行ってきた。

 ソウル市の取り組みは、福祉を享受することを恥としたり社会保障費抑制のために自助・自立を強制する日本の流れに、強烈な批判を突きつけている。誰もが必要な福祉を安心して享受でき、人らしく生きることができる―地方自治体が果たすべき役割は住民福祉の増進にある。

 私たちの生きる同じ世界で、このような市民自治、堂々と享受できる福祉が実践されていることに勇気をもらった。足立区でも、日本の各地でも、ぜひソウル市のような民主主義をつくり出したいと思う。





---------------------

 記録・資料集『民主主義の街―Seoul』(コピー代+送料300円程)お申し込みは E-mail tomonitsukurukai.tokyo@gmail.com
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS