2018年01月26日 1511号

【沖縄デマの拡散ルート/「反基地運動が小学校移転を妨害」のウソ/「産経」が作り、ヤフーが広める】

 墜落や不時着や小学校への部品落下など、沖縄で米軍機による事故が相次いでいる。米軍基地の存在が住民の安全を脅かしていることは明らかだが、その一方で「基地反対派の自作自演」「住民は好んで基地の周りに住み着いたのだ」といった怪情報がネットを中心に広がっている。沖縄フェイクニュースはいかにして拡散されるのか。

誹謗中傷のネタ元

 米軍普天間飛行場に隣接する普天間第二小学校の運動場に、米軍のCH53大型輸送ヘリの部品(7・7sの窓)が落下する事故が発生した(12/13)。離陸直後のヘリから何らかの物体が落ちていく様子を複数のテレビ局の定点カメラがとらえている。



 それなのに、同小や宜野湾(ぎのわん)市教育委員会に対し「自作自演」を疑う電話やメールが相次いでいる。同様の誹謗(ひぼう)中傷は米軍ヘリの部品が屋根に落下したとみられる緑ヶ丘保育園にも向けられた。「学校をどかすのが筋だろう」「そんなところに保育園があるのが悪い」といった批判も多数寄せられているという。

 これらはインターネット上に流布している情報に影響されたものと思われる。実際、ブログやSNSで「普天間第二小学校には移転計画があったが、基地反対派の妨害でつぶされた」という話が大量拡散されている。そんな話がどこから出回ったのか。

 出典を探ると、MSN産経ニュースの配信記事(2010年1月9日)が浮上してきた。「児童の安全より反対運動優先か/基地隣接の小学校移転」と題した宮本雅史・産経新聞那覇支局長(当時)の署名記事である。この記事の元ネタをさらに探ると、「チャンネル桜」が配信した「普天間基地の真実」なる動画に行き当たる。

 つまり、「ネット右翼発信の情報を産経新聞がニュース化→ヤフーニュースなどで取り上げられ、多くの人びとの目に留まる→SNS等で引用され、さらに広まる」という拡散ルートを通る過程で、根拠の怪しい話が「マスコミが伝えない真実」に進化していったのである。

安全な場所はない

 問題の「産経」記事によると、騒音被害が激しくなった1980年、当時の宜野湾市長(保守系)が米軍と交渉。キャンプ瑞慶覧(ずけらん)の一部を学校用地として返還させることで合意し、予算も確保した。ところが、市民団体が「移転は基地の固定化につながる」などと激しく反対したため、計画は頓挫したという。

 「産経」は、「市民団体などは基地反対運動をするために小学校を盾にし、子供たちを人質にした」という「市関係者」の証言を紹介している。だが、市の教育次長や企画部長として移転問題に関わった比嘉盛光さん(後の宜野湾市長)は「こんな話は、聞いたことがない」と語る。報道内容とは逆に、移転費の補助を国に求めたが、認められなかったからだ(2016年1月31日付沖縄タイムス)。

 そもそも、米軍側がつけてきた返還条件の中には「第二小の敷地は普天間飛行場に編入する」というものがあった。市民の土地を新たに米軍に差し出せ、というのだ。これは米軍に土地を奪われた宜野湾市民にとって、受け入れがたい要求であった。

 そして、移転計画の浮上から12年たった1992年、これまで移転要請を重ねてきた普天間第二小PTAが移転を断念し、現在地での校舎建て替えを求めることを決定した。老朽化した校舎をこれ以上は放置できない。建設費の高率補助が適用される復帰特別措置法の期限切れが迫る中での「苦渋の選択」だった。

 このような「移転断念」の経緯は当時の関係者に取材すればすぐにわかることだ。フェイクニュース製造の確信犯である産経新聞の罪は重いが、何の検証も行わず転載した各種ポータルサイトにもデマ拡散の責任がある。

 ちなみに、普天間飛行場は宜野湾市のほぼ中心に存在し、市面積の4分の1を占める。上空に米軍ヘリやオスプレイが飛ばない場所はほとんどない(図参照)。「安全な場所に住めばいい」という言い分は、そもそも成立しない。


新年早々デマ配信

 産経新聞は1月4日、「沖縄県が観光収入を過大発表/基地の恩恵少なく見せ、反米に利用か」との記事を配信した。データをごまかし、基地収入依存した沖縄経済の実情を隠しているという趣旨である(ソースは「沖縄振興に関わる政府関係者」)。

 しかし、沖縄県は県民総所得に占める基地関連収入の割合(2014年度は5・7%)を統計資料として示しているのであって、観光収入の計算方法はここでは関係ない。見出しによる印象操作は明らかだが、各種ポータルサイトは官邸発とみられる「産経」記事をたれ流した。

 沖縄県は2016年に「沖縄から伝えたい。米軍基地の話 Q&A」と題する冊子を発行(ネットでも公開)しているが、フェイクニュースに物量で圧倒されているのが現状である。米軍基地の存在を正当化するデマを許してはならない。本紙も引き続き、フェイクニュース退治の一翼を担う決意である。  (M)
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