2018年02月09日 1513号

【安倍首相の改憲提案/「自衛隊明記」は現状追認ではない/9条死文化、本格派兵が狙い】

 「いよいよ憲法改正を実現する時を迎えている」。通常国会が開会した1月22日、安倍晋三首相は自民党の両院議員総会でこう宣言した。憲法9条の「改正」に多くの人びとが警戒心を抱く中、安倍政権はいかにして成し遂げようとしているのか。安倍流改憲戦略を読み解いていこう。

世論のスキを突く

 「9条改憲が争点になるのなら、『護憲派』が負けることはない」。このように思っている人は今も多いのではないでしょうか。

 たしかに、平和憲法の象徴である第9条は多くの人びとに支持されています。NHKの世論調査をみると、「9条改正」については「不要」が57%で「必要」の25%を大きく上回っています。9条が日本の平和と安全に役に立っているという人も約8割に達しています(「日本人と憲法2017」調査)。

 一強と称される安倍政権といえども、「9条守れ」意識を正面突破することは難しいでしょう。ただし、連中がまともな立ち合いをしてくるとは思えません。変化したり、猫だましのような奇手を繰り出してくるでしょう。相撲好きの方以外にはわかりくい例え話かもしれませんが、要は人びとを惑わす手口を使ってくるということです。

 昨年5月、安倍首相は「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」という改憲の方向性を提起しました。戦争放棄を掲げる第1項、「戦力不保持」と「交戦権の否認」を定めた第2項はそのままにし、自衛隊の存在を明記する条項を追加する。そうすることで「自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、違憲論が生まれる余地をなくすべきだ」というのです。

 これは思いつきの提案ではありません。彼らなりに世論を分析した結果の「必勝プラン」なんです。各種世論調査をみると、第2次安倍政権の発足以来、改憲必要論は減る傾向にあるのですが、自衛隊を合憲と考える人は増えています(表1参照)。安倍一派はそこに着目し、付け込もうとしているのです。


「まだまし」を偽装

 加憲による自衛隊明記案のネタ元は日本最大の右翼団体「日本会議」です。具体的に言うと、安倍首相のブレーンでもある伊藤哲夫(日本会議政策委員)が提唱したものです(『明日への選択』2016年9月号)。

 伊藤は国民の反戦・平和意識が根強いことを認めた上で、護憲派の分断を狙うことが肝要だと説きます。“加憲=公明党へのおもねりではない。戦争法反対運動のような統一戦線の形成を阻む積極戦略と位置づけよ“というのです。

 この提案は従来の自民党路線とは相容れません。自民党が2012年にまとめた「憲法改正草案」は、現行の9条2項を削除し、自衛隊を「国防軍」に改めるとしています。この方針を堅持すべきだという声が党内には根強くあります。その代表格が石破茂元防衛相ですね。

 しかし、岸田文雄政調会長や高村正彦副総裁など党の有力者は「安倍提案支持」を表明しています。高村の言い分はこうです。「首相も私もできれば2項を削除した方が良いと思っているが、現実的に難しい」「2項削除では国民投票が通らない」

 それでも石破らは抵抗するでしょうが、安倍にとってはそのほうが都合がいい。「2項削除」論との比較で、自分の加憲案を「ずいぶん抑制的な案」(高村)と思わせることができるじゃないですか。総裁選のライバルに打撃を与えることにもなり、一石二鳥というわけです。

今が勝負どころ

 安倍首相は国会で「自衛隊の存在を憲法に明記することによって、任務や権限に変更が生じることはない」と断言しました(1/24衆院本会議)。真っ赤なウソですね。ただの現状追認なら、多大な労力を費やして改憲に挑む必要はないじゃないですか。

 自衛隊を憲法に明記すれば、非軍事を最大の特徴とする日本国憲法の性格が根本的に変わってしまいます。従来の憲法解釈上の「制約」は消失し、組織の性格や活動範囲に大きな変化が生じるでしょう。自衛隊幹部はこのことを明確に意識しています。たとえば、齋藤隆・元統合幕僚長は読売新聞のインタビュー(2016年5月30日付)で次のように述べました。

 「(9条)2項が維持されれば、自衛隊は『陸海空軍』とは切り離された特殊な存在であり続ける可能性はある」が、「根拠規定が明記され、合憲と整理された後に、軍隊とは何か、自衛隊とどう違うのかなどのかみ合った議論につながっていくのではないか。軍事法廷の要否、戦死者の問題、本格的な集団的自衛権に踏み込むべきか否かなどの論点もある」

 自衛隊明記によって9条2項は空文化していき、本格的な海外派兵(米軍と一体化した全地球規模の派兵・戦闘参加のことです)への道が開かれると言うのです。

 前述の伊藤は「安倍提案」の戦略的意義を次のように解説します。「改正を一度経験すれば、国民の憲法改正への見方、安全保障観は根本的に変わる」「国民の認識の変化を前提としてこそ、自衛隊を『軍』に位置づけるという2段階目の本来の議論も可能となっていく」(『明日への選択』2017年11月号)。野望実現に向け、段階を踏む作戦なんですね。

 「安倍提案」に対する世論の評価はまだ定まっていません。世論調査で賛否を聞いても結果にはバラツキがあります(表2参照)。今が勝負どころです。3千万人署名運動を通して安倍改憲の正体を暴き、改憲発議をさせない状況を作り出しましょう。(M)



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