2018年02月16日 1514号

【原発輸出を税金で「全額保証」 日立の英原発に1兆1千億円】

 日立製作所による英国での原発2基の新設計画が急速に進展している。最大の要因は、巨額の資金調達に道を開いた日本政府による「貸し倒れリスクの全額引き受け」である。建設工事の遅延や事故などで融資が焦げ付いた場合、政府が税金で穴埋めするというのだ。原発の巨大なリスクを市民に丸ごと転嫁するこの策動を許すことはできない。現地の反対運動と連帯し計画撤回に追い込むために闘うときだ。

市民への巨額負担転嫁も

 日立が現地子会社ホライズン・ニュークリア・パワーを通じて英国西部アングルシー島に計画するウィルヴァ・ニューウィッド原発。各135万kWのUK―ABWR(英国向け改良型沸騰水型炉)2基で、初号機の運転開始目標は2020年代前半とされる。



 日英両政府は昨年12月、総事業費約3兆円の資金調達枠組みにつき確認の書簡を交わした(政府は公開を拒否)。(1)出資約4500億円(2)融資約2兆2千億円(3)その他収入約3千億円でまかなうという。(1)は日立など日本側が3千億円、英国側が1500億円を拠出、(2)は日英で折半し、日本側は1兆1千億円を融資する(つまり、日本側の投融資総額は1兆4千億円)。融資の主体は政府系の国際協力銀行(JBIC)や3大メガバンクが見込まれ、貸し倒れに備えて政府系の日本貿易保険(NEXI)が全額を保証する方向だ(1/11朝日)。

 先進国向けの貿易保険で全額保証は異例だ。しかも原発事業は特に福島事故後、安全基準・対策強化に伴う工事遅延や未完工のリスクが飛躍的に増している。事故リスク、訴訟や反対運動による遅延・中止リスクも伴う。貸し倒れとなれば、JBICやNEXIの財務悪化から公的資金による資本注入=巨額の国民負担につながる可能性が高い。


生き残り賭ける原子力産業

 同事業を請け負う中核は、日立の欧州子会社(HNE)、米ベクテル、日揮の3社による共同事業体だ。原子炉は日立GEニュークリア・エナジー(日立と米GEの合弁)が供給する。

 発電機器の部材、冷却水循環ポンプやバルブなど各種部品、原子炉建屋など、部品・資材の調達や建設で4割程度を日本企業が受注し、プラントの稼働に必要な基幹技術の大半を担うとされる。日本メーカーの受注額は、総事業費約3兆円のうち現地調達分を除く1兆円超に達するともいわれる。

 一般に原発建設では、300〜500社程度が部品納入や建設工事に携わる。福島事故後、国内で大半の原発が停止に追い込まれ、新増設の見通しも立たない一方、政府主導で諸外国に売り込んだ原発輸出計画は軒並み停滞・頓挫している。この逆風の中で人材と技術の「断絶」に直面する原子力ムラの危機感は極めて強い。「技術を絶やさないためにも、英国のプロジェクト獲得は必要」(経産省幹部)という事情が政府全面支援の背景にある。

判断は2020年夏

 英国の計画は日立にとって原発事業成長の切り札だ。原発事業会社ホライズンの買収は、福島事故後の2012年。世界的に新設計画が止まる中、原子炉の納入先を確保する必要に迫られたのである。一方で、日立はホライズンへの出資比率を50%未満にして本社の連結対象から切り離そうと躍起になっている。米原発事業の巨額損失で危機に瀕する東芝の二の舞を避けるためだ。日立は表向き慎重姿勢を崩さず、英原発事業を進めるかどうかの最終判断は2020年夏としている。

 リスクはそれほどまでに高い。3メガバンクがあくまで政府の全額保証を融資の条件としたのもそのためだ。

阻止で原発輸出に痛打を

 東芝子会社であった米ウエスチングハウスの事業を除き、日本メーカーはいまだ海外での原発建設実績がない。世界の原発市場を席巻する中国・ロシアなど新興国勢との競争が激化する中、インフラ輸出を成長戦略の柱と位置づける安倍政権にとって、今回の政府全面支援による輸出戦略は重要な「試金石」(経産省幹部)となる。事実上の第1号案件として、原発輸出に弾みをつける効果を見込んでいることは明らかだ。

 こうした政府・日立・原子力ムラの思惑を打ち砕き、原発輸出の出鼻をくじく闘いの意義は極めて大きい。原発輸出に反対する国内諸勢力と協力し、英国現地の闘いと連帯して、政府・日立に対する運動を進めたい。

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戦略ODAと原発輸出に反対する市民アクション(コアネット) 事務局次長・村地秀行
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