2018年02月16日 1514号

【平昌五輪で「歴史戦」!?/「慰安婦問題を語るな」が本音/戦争犯罪を「なかったこと」に】

 日本軍「慰安婦」問題に注目が集まる中、日本国内では「中韓の反日宣伝だ」「決着済みの話を蒸し返すな」といった言説が幅を利かせている。安倍政権による「慰安婦バッシング」の影響だ。しかし、戦争の記憶を継承することを妨害する権利など、どの国の政府にもない。戦争犯罪を「なかったこと」にはできないのである。

約束破りはどっちだ

 韓国・平昌五輪の開会式への出席に先立ち、文在寅(ムンジェイン)大統領との首脳会談にのぞむことになった安倍晋三首相。周囲には「どこかの段階で文氏に面と向かってはっきり『(日韓合意を)どうするつもりなんだ』という必要がある。日本人の怒りを感じさせないといけないから」と語っていたそうだ(1/25朝日)。

 日本人の怒りとは大げさだが、「嫌韓感情」が高まっているのは事実である。読売新聞の世論調査(1/12〜1/14実施)によると、韓国政府からの追加要求には応じないとする日本政府の方針を「支持する」と答えた人は83%に上り、性別や年齢を問わず高い割合を占めた。また、韓国を「信頼できない」と思う人は「あまり」と「全く」を合わせて78%にも達している。

 テレビ番組をみても、韓国の「国民性」まであげつらい、一方的に非難する声ばかりが目立つ。しかし、安倍政権に「韓国側の約束破り」を批判する資格があるのだろうか。10億円を拠出さえすれば日韓合意を「着実に履行」したことになるのか。

 日韓両政府の合意内容をあらためて確認しよう。すべての前提となる認識は、「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」ことに、「日本政府は責任を痛感している」というものだ。この認識に従い、安倍首相は日本の総理大臣として「心からおわびと反省の気持ちを表明する」とされた。

 日韓合意の5か月前には、「戦後70年安倍談話」が発表された。その中には「私たちは、二十世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を、この胸に刻み続けます」というくだりがある。

 このように、日本政府は戦時性暴力によって女性の人権を侵害したことの責任を認め、その事実を「胸に刻む」ことを公式に表明している。「慰安婦」関連の碑や像の設置を妨害したり、居丈高に撤去を迫るなんて、それこそが「合意の精神」に反する約束破りなのだ。

理不尽極まる要求

 ところが安倍政権は、「慰安婦」問題を語ること自体に「蒸し返すつもりか」と難癖をつけている。たとえば、韓国の国立墓地内に「慰安婦」被害者の追悼碑を設置する計画に対し、菅義偉官房長官は「日韓合意の精神に反する」と不快感を示した。

 日韓合意とは関係のないフィリピン政府に対しても、昨年12月に「慰安婦の像」が設置されたことについて、在マニラ日本大使館を通して「日本政府の立場とは相容れない」と抗議している。

 連中の言う「日本政府の立場」とは何なのか。毎日新聞の澤田克己記者が外務省に問い合わせたところ、「フィリピンとの間ではサンフランシスコ講和条約で法的責任に関する問題はすべて解決済みだということだ」との回答が返ってきた。戦後処理が法的に終了しているのに戦争被害を強調されては友好関係を損なう、と言いたいらしい。

 この論法でいくと、日本も講和条約で対米請求権を放棄しているので、原爆や空襲被害者の追悼碑を建てることは「反米的」で好ましくないということになる。理不尽極まる認識というほかない。

焚きつける「読売」

 そうした安倍政権の姿勢を日本の御用メディアは支持し、「もっとやれ」と焚きつけている。たとえば、12月15日付の読売新聞社説は次のように書いた。「慰安婦像の設置によって対日関係が悪化するという認識が、フィリピン側には欠けているのではないか。日本政府が撤去を求めたのは当然だろう」

 読売社説はさらにこう続く。「慰安婦問題に絡めて、日本の名誉を不当に貶(おとし)めたり、周辺国との関係を傷つけたりする動きは、到底看過できない。新たな像の設置を食い止めるための一層の外交努力が欠かせない」

 「読売」に言われるまでもなく、関係各所は動き始めている。1月24日、外務省は自民党の会議に参加し、米国など4か国の計15か所で「慰安婦」関連の像や碑が設置されたと報告した。議員からは「設置の動きをとめるよう日本大使館・総領事館から地元社会の働きかけを強めるべきだ」との声が上がり、外務省幹部は「各地の日本人会、日系人会、経済界と連携し像の設置阻止に努める」と応じたという(1/25朝日)。



 経済面からも圧力を加えていくということだ。これが侵略と植民地支配を行った加害国のやることか。盗人猛々しいとはこのことを言う。

 フィリピン華人社会のリーダーであるテレシータ・アング・シーさんは「日本の占領は事実だ。暴行、迫害、虐殺、強姦などの戦争犯罪も事実だ。これらを否定することはできない」と憤る。「歴史戦」と称した安倍一派の歴史歪曲策動は、このような反発を世界各地で招いているのである。

 このままでは「日本は官民一体の隠ぺい国家」という認識が国際的に定着してしまう。右派勢力が好む表現を使えば、安倍政権のふるまいこそが日本の名誉を回復不能なほど貶めているのである。 (M)



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS