2018年02月23日 1515号

【安倍政権の介護保険改悪 「自立支援」の名で介護棄民】

 安倍政権の社会保障解体攻撃は介護保険をターゲットとしている。介護保険法改悪を受け、この4月に介護報酬改定、8月3割負担導入と保険あって介護なし≠ェ進む。キーワードは「自立支援」だ。介護を必要とする高齢者にとって「自立支援」とは何か。

「自立支援」のまやかし

 だれしも自分のことは自分でやり通したい。だが、要介護状態になるとできない部分を補ってもらわなければならない。家族だけでは介護を担いきれない中で、「介護の社会化」の名の下に介護保険制度が創設され、社会化は一定程度広がった。団塊の世代が後期高齢者に突入する2025年問題が近づくにつれ、介護の需要が大きくなっている。さらに国庫負担などを強めなければならないのだが、実際は保険あって介護なし≠フ状況へ進んでいる。

 それを正当化するために安倍首相は「自立支援に軸足を置きます」(16年11月未来投資会議)と「自立支援」を強調する。要は、介護保険でこれ以上の面倒は見ないから後は自分たちで支え合いなさい、というものだ。「自立支援」という美名に隠された「介護棄民」ではないのか。

 昨年の5月、介護保険法改悪を含む31の法律を束ねた、いわゆる「地域包括ケア強化法」が成立した。そこでは、「地域包括ケアシステムの深化・推進」と「介護保険制度の持続可能性の確保」を柱にたて、介護保険制度総体の切り崩しが狙われている。

 「地域包括ケアシステムの深化・推進」では、自立支援・重度化防止に向けた保険者機能の強化、医療と介護の連携推進、地域共生社会の実現に向けた取り組みが中心項目とされた。

 中でも「自立支援・重度化防止」が最優先課題とされ、保険者である市町村にその責任を押し付けている。要介護認定率(65歳以上の高齢者に占める要支援・要介護認定者の割合)の推移をみると、全国で11年に17・3%が15年18・0%に上がっている。ところが、埼玉県和光市や大分県では下がり、同時に保険料の上昇抑制もされている。国は、こうした事例を「先進例」と称え、認定率や保険料を下げることを目標にするよう仕向けている。現場では機能訓練や栄養改善の努力を重ねているのだが、「自立支援」という美名に踊らされてはならず、その奥に隠された狙いを見抜く必要がある。

 本来の「自立支援」とは、「障害者がめざしてきた自立とは、無理をして何でも自分でやることではありません。介助者の方々に上手に助けを借りながら、自分で決め、決めたことに責任を持つこと」(ある障がい者の発言、2/3朝日)ではないか。「自立支援」強調の裏に介護保険を使わせないようにする意図がある。

 「介護保険制度の持続可能性の確保」の狙いは明らかだ。所得の多い利用者の自己負担割合が8月より2割から3割に増える。現時点では自己負担3割の人は約12万人と少数だが、いずれ全体を3割負担にすることの思惑が見え隠れする。また、介護納付金を加入する人数(加入者割)で決めていたものをボーナスを含む収入の総額(総報酬割)で決める総報酬制が昨年8月から開始され、多くの労働者には負担増となっている。介護サービスが伸びていく現状にあって、制度を持続していくためと称して負担を増やすことを強調しているのだ。

悪質な我が事・丸ごと施策

 「地域包括ケアシステム法」では見過ごせない内容が位置づけられた。それは、「『我が事・丸ごと』の地域づくり」である。「地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合い、地域コミュニティを育成し、公的福祉サービスと協働して助け合いを進めよう」と説明されている。なんとなく良いことのように聞こえるが、次のような意図が隠されている。

 「我が事」とは介護保険から排除された人を地域住民の支え合いや助け合いに委ねることであり、「丸ごと」とは既存の縦割り制度を解消させ規制緩和することである。塩崎元厚労相は、この「我が事・丸ごと」施策について「新しい福祉の哲学の転換」と言い、地域の助け合いが「日本の原風景に戻すもの」とまで言ったのだ。

 助け合いが法律に明記されるとどうなるか。助け合いの強調には公的責任を回避するための狙いがあり、さらには行政による助け合いの強制が起こらないともかぎらない。

 「自立支援」も、「我が事・丸ごと」も、政府は介護についての公的責任を放棄し、自己責任強要の動きによって地域住民の良心にまで手を突っ込もうとしている。こうした宣伝、世論操作の悪質さも見抜こう。

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