2018年02月23日 1515号

【産経新聞ウソばれ謝罪/フェイクニュース拡散の確信犯/「安倍に逆らう者」をデマで攻撃】

 産経新聞は2月8日、沖縄の地元2紙を「日本人として恥だ」などと批判した記事について謝罪し、削除した。前提となる事実(米兵による人命救助)が確認されなかったからだという。「産経」はこれまでも、真偽の怪しい情報を記事化し、「反安倍」認定した者を叩いてきた。いわばフェイクニュース拡散の確信犯なのである。

海兵隊にも否定され

 昨年12月1日、沖縄市で車6台がからむ多重衝突事故が発生した。この事故を9日付の産経ニュース(インターネット配信)は「危険顧みず日本人救出し意識不明の米海兵隊員/元米軍属判決の陰で勇敢な行動スルー」との見出しで取り上げた(高木桂一那覇支局長による署名記事)。

 記事の趣旨は「曹長の勇気ある行動」を報道しなかった沖縄地元紙に対する批判である。「米軍がらみの事件・事故が発生すると、『けしからん!』『米軍は出て行け!』と言わんばかりにことさら騒ぎ立て、米軍の善行には知らぬ存ぜぬを決め込むのが、琉球新報、沖縄タイムスの2紙を筆頭とする沖縄メディアの習性である」というのだ。

 高木は「これからも無視を続けるようなら、メディア、報道機関を名乗る資格はない。日本人として恥だ」とまで断じている。12日付の産経新聞本紙にもネット版をまとめた記事が掲載された。これらの報道がきっかけとなり、沖縄2紙には多数の抗議が寄せられたという。

 ところが、両紙の反論記事により驚きの事実が明らかになる。批判の根拠となった米兵の救助行為自体が存在しなかったのだ。沖縄県警は「救助の事実は確認されていない」と回答。当初は「日本人を救助した」としていた米海兵隊も12月下旬には事実誤認であることを認め、当該のツイート等を訂正していた。

 県警交通機動隊によると、産経記者は事故後一度も同隊に取材していない。「報道機関を名乗る資格はない」と他紙を非難するくせに、自らは最低限の事実確認すらしていないとは…。それこそ「報道人」として恥というか、お粗末きわまりない。

元ネタはネトウヨ

 「産経」は2月8日付の紙面で事実誤認と沖縄2紙に対する「行き過ぎた表現」を謝罪し、当該記事を削除した。だが、今回の誤報の根本原因は「取材不十分」ではない。「産経」は沖縄叩きを目的とした報道を連発している。問題のデマ記事は氷山の一角にすぎないのである。

 「産経」自身の検証によると、高木那覇支局長は「米兵の勇敢な活動がネット上で称賛されている」ことを知り、記事化に動いたという。この検証では触れられていないが、元ネタは手登根(てどごん)安則なる人物のSNS投稿である。

 手登根は沖縄に関する数々のデマの発信源となってきたネット右翼だ。東京MXテレビの『ニュース女子』にも現地の証言者としてVTR出演し、「基地反対派は日当をもらっている」と吹聴した。先日の名護市長選挙では「現市長のせいで日本ハム球団が名護キャンプから撤退した」といったインチキ情報をまき散らしていた。

 そんな札付きのネトウヨ発の情報に高木は食いついた。彼は安倍政権の基地押しつけ政策を批判する沖縄のメディアを明らかに敵視しており、昨年10月に出演したネット番組では「はっきり言ってここは『偏向報道特区』だ」と述べていた。沖縄に対する偏見丸出しのこの認識は、高木個人のみならず、「産経」全体のものである。

 事故当時、沖縄では元海兵隊員による女性暴行殺害事件の判決(12/1)が注目を集めていた。「産経」は米軍批判の高まりへのカウンターとして、沖縄2紙に対する「偏向報道」叩きを仕掛けたのである。攻撃のネタが欲しかっただけの彼らには、情報の事実確認など大した問題ではなかったのだろう。

ポータルサイトの責任

 辺野古、高江、石垣島など、沖縄各地の基地反対運動に対し、「産経」は負の印象を刷り込む謀略宣伝をくり広げてきた。ネトウヨ発のデマを拾い上げてニュース化し(一種の情報ロンダリング)、ネット配信や紙面で拡散するというパターンである。

 沖縄県内における琉球新報と沖縄タイムスの販売部数は合計32万部ほどあるが、産経新聞は300部にも満たない。文字どおり桁が違う。一昔前なら、いくらデマを流しても人びとには届かず、世論に影響を及ぼすことはなかった。

 しかし、ネット環境が整備された現在は違う。「産経」は全記事を無料配信しているので、各種ポータルサイトで検索すると産経記事が上位に登場することが多い。政治ニュースの大半を占めることも珍しくない。つまり、ネットの世界では産経発のデマ記事が世論形成に大きな影響力を持っているのである。

 各種ポータルサイトが取り上げた産経記事は、沖縄叩きのソースとして「まとめサイト」等に引用され、さらに広がっていく…。これがフェイクニュース拡散の典型的プロセスだ。謀略デマ記事をノーチェックで載せているネット会社の責任は重い。 (M)



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS