2018年03月09日 1517号

【米機燃料タンク投下も問わず 「おしつけ憲法改正(?)」叫ぶ安倍首相/9条改悪、めざすは派兵体制】

 三沢基地(青森県)離陸直後、エンジンが火を噴いた米戦闘機F16。自機を守るため燃料タンクを切り離した。直下には民家や漁船が。直撃は避けられたが、漁場に流出するジェット燃料を自衛隊が片づけ、漁業被害は日本政府が税金で補償すると聞けば、怒りは倍加する。「占領下のおしつけ憲法」と勇ましく改憲を掲げる安倍政権。改憲で「占領下」同然の米軍優先が解消するわけではない。日米安保体制を利用し、米軍と同等の軍隊に自衛隊を仕立てようとするものだ。3000万署名をさらに広げるためにも安倍の狙いを見る。




安保体制の優先

 米軍機の起こした事件を日本が後始末するのはなぜか、誰もが疑問に思います。

 今回の事件では海上自衛隊が出動しました。青森県知事の災害派遣要請とのことですが、「米軍が自衛隊に任せた」(小野寺五典防衛相)からで、政府は何の異議も唱えず引き受けました。

 米軍と日本政府間のルールを見ておきましょう。米軍駐留の根拠は日米安保条約。その第6条に、米軍が使う施設や区域(基地・演習場)、米軍の地位については行政協定で決めるとあります。いわゆる地位協定です。その第17条で刑事裁判権、第18条では請求権・民事裁判権について定めていますが、具体的な解釈・運用は、第25条に定める日米合同委員会で協議する仕組みになっています。つまり、米軍との関係は日米合同委員会で決まるのです。

 日米合同委員会は、外務省北米局長と在日米軍司令部副司令官をトップとした13名による本会議と「事故分科委員会」など20以上の委員会や作業部会が設けられています。この日本の高級官僚と米高級軍人との会議は隔週木曜日が定例。臨時開催もあります。驚きなのは「会議内容は非公開。決定事項は国会の承認を要しない」との合意の下で行われていることです。

 米軍が起こした事件・事故の損害は、安保条約に基づく特別法で、日本政府が公務員が与えた被害と同じように補償します。後日、米軍が一部を負担する仕組みが地位協定で決められていますが、爆音被害などは全額日本政府のまま。日米合同委員会でどんな裏取引があるのかわかりません。

 こうした米軍と日本政府の関係は、旧安保条約(1951年締結)の時から続いているもので、改定(60年)後も変っていません。政府は沖縄だけでなく、日本中どこでも、自ら進んで「米軍優先」で動くのです。

日本再軍備への道筋

 「占領下でおしつけられたみっともない憲法」とまで言う安倍首相が、なぜ「占領下」と変わらぬ米軍したい放題の元凶、安保条約を強化しようというのでしょうか。

 憲法と安保条約は、180度違います。他国を侵略した反省から「戦力不保持」を明記した憲法。一方、安保条約はスタートから日本の再軍備をはかろうとするものです。

 憲法が成立したのは46年11月3日(施行は47年5月)。安保条約は、沖縄などを除き主権回復を定めたサンフランシスコ平和条約と同時に、51年9月調印、52年4月発効です。この間に何があったのか。49年、中華人民共和国成立、50年6月、朝鮮戦争勃発です。

 南北分断国家の内戦として始まった朝鮮戦争は、社会主義体制をつぶそうとする米国と中国、ソ連(当時)の代理戦争でもありました。劣勢だった米軍は日本再軍備に方向転換し、10月には安保条約原案を作成。「米政府が任命する最高司令官の指揮のもと、日本国外での戦闘行為も可能」な軍隊作りを盛り込みました。

 朝鮮戦争に出撃して留守になった米軍基地の警護のために、と8月「警察予備隊」7万5千人が組織され、2年後「保安隊」となり、54年「自衛隊」へ。すでに朝鮮戦争は休戦(53年)になっていましたが、米ソ冷戦時代に備え、日本軍(自衛隊)が創設されたのでした。将来のアジア再侵略をめざし再軍備の機会をうかがっていた日本政府・独占資本は進んで応じたのです。

 安倍首相が気に入らないのは「占領下のおしつけ」ではなく、「戦争放棄」「戦力不保持」です。日本を再軍備させた安保は歓迎なのです。自衛隊は、米軍のアジア戦略に、応えつつ強化されてきました。米軍基地もいずれ自衛隊基地にするつもりです。

米軍同様したい放題に

 「強固な日米同盟」と安倍首相は言います。そのために、いつも米国の「言いなり」になっているのでしょうか。

 朝鮮半島の緊張をあおり、米核戦略を評価するのは、安倍政権の思惑が米政府の要請と一致しているからです。

 朝鮮戦争時、米軍に戦争協力し生産力を回復した日本経済。今、世界市場での権益争いの中にある日本のグローバル資本は、自前の軍隊をいつでもどこへでも派兵できる体制がほしいと思っています。安倍政権が史上最高額に軍事費を拡大させ改憲を狙うのも、集団的自衛権をうたった戦争法を合憲とすることを目標としているのです。

 歴代自民党政権の憲法解釈さえ捻じ曲げて強行した戦争法。常に違憲性を問われる不安定さがあります。朝鮮半島の軍事緊張は、自衛隊を明記したい安倍9条改憲に何より都合がいいわけです。米政府が「南北対話歓迎」を表明したときでも、日本政府があくまで圧力ばかり強調し妨害しているのはそのためです。

 朝鮮戦争をきっかけに再軍備の道を歩き始めた日本。海外派兵をするまでになっています。安倍9条改憲は、憲法の方を軍優先の日米軍事一体化にあわせる第一歩なのです。

 そして今回のF16事件。日本政府は「飛行停止」などを求めません。沖縄では特にそうです。事故の度に演習を停止するなど、軍の論理ではありえない。自衛隊も米軍同様に憲法の制約をなくし、したい放題にする―これが、「自衛隊明記」改憲の本当の狙いなのです。

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